第467話 ティティ、残念に思う
結果を言うと、ライが慎重に開けた扉には、特に仕掛けはなかった。
でも重そうだったけどね!
開けた先は、地上一階部分と同じような真っ白な空間。
ただ、中央部に小ぶりな泉があった。
泉の真ん中から水が湧き出ている。
見方によっては、噴水に見えるかも。
そして部屋には、霧が発生しているようで、もやっとしている。
これは泉や噴水って言うより。
「なんか温泉場みたいだねえ」
ノアの手を引きつつ、泉に近づく。
「ねえね、おんせんて、なに?」
「温泉って言うのはね、自然に湧き出るお湯、お風呂みたいなものだよ」
「おふろ! きもちいーやつだね!」
「そうそう」
ノアったら、こんな小さいうちから、お風呂なんて贅沢なものを覚えてしまって。
まあ、私もだけどさ。
私がいる限りは、お風呂に入れてあげられるけど、お婿さんに行った先に、お風呂ないときついよねえ。
いいところに、お婿に行かせないと。
<ずいぶん先の話だな>
そうだね。そこまで心配しなくていっか。
そう告げたスヴァが、泉のちょい手前で、ぴたりと足を止める。
「スヴァ、どうしたの?」
<我は、これ以上その泉には近づけぬ>
どうして?
<我もおぬしと魂が融合しているとはいえ、元は魔に属する者、神気に近づきすぎると少し堪える>
あ、ニーネと同じか。
それでもここまでこれるスヴァはきっとすごいのだろう。
てことは、やはりこの泉の水が、天の溶光なのかな?
こんこんと湧き出てるけど?
天の溶光って、すごい貴重なものの筈ではないのか?
「どうしたのですか?」
スヴァにつられ、足を止めた私に、ライが声をかける。
ちなみにライは私と手をつないだノアの隣を歩いている。スヴァは私のノアとは反対側を歩いていた。
「うん。スヴァがこれ以上いけないみたいで」
「ああ、彼も魔物ですから、ニーネさんと一緒なのでしょう」
ライはすぐに納得してくれた。
「スヴァ、じゃあ、そこで待っててね」
それに答えるように、スヴァがちょこりとお座りする。
しかし、ライって、スヴァとニーネまで、丁寧に一個体として扱ってくれるよね。下手したら、自分のほうが下のように。
<我が上に決まっておろう。この者は、それをちゃんと心得ておるのだ>
気持ち胸を張ってスヴァ答えているけど、上も下もないでしょ。
まあいい。さっさともらえるものは、もらっておかねば。
ティティはノアの手をつないだまま、再び泉に近づく。
泉は、白いキラキラした石で囲まれていた。
なんか、この石自体も価値がありそう。
はっ! いかんいかん!
ティティは邪念を捨て、そっと泉をのぞき込んでみる。
泉は割と浅い。ティティでも、足が立ちそうな位だ。
そして泉の水は透き通っている。生き物はいないみたいだ。
「見たところ、危険はなさそうですね」
ライが片膝をついて、そっと泉に手を入れる。
おおっ!
ライってば、大胆だね!
手が溶けたらどうするのだ!
まあ、国守さまの泉だもんね、それはないか?
でも、きいちゃう。
「大丈夫?」
「はい。なんともありません」
やっぱりね。
ライにならい、ティティも、そしてその横でノアも、泉に手を入れてみる。
「つめたいねえ」
ノアが、素朴な感想を漏らす。
「温泉じゃなかったか。残念」
ほら、ここで国守さまもお体をいたわるのだろうと思ったから、もしかしてと思ったんだよねえ。
違ったかあ。
「沐浴なされるのでは、ないでしょうか」
「沐浴かあ。温泉のほうがいいよねえ。ほら赤ちゃんの沐浴する場合、お湯を使うし」
<そういう問題でもないだろう>
そだね。
てか、スヴァ後方にいるのに、会話に入ってくるね?
「さて、この泉の水が、天の溶光でいいのかな?」
「おそらく。液体は、この泉の水だけですし。ほかに、集められるものは、この部屋にはありませんし」
「うん。にしても、こんこんと湧いてるねえ」
ちょっともらっても、枯渇しなさそう。
潤沢にある分、疑問がわくんだよねえ。
これで合ってるのかなってね。
そう思った刹那、空気が動いた。
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