第461話 ティティ、謎を深める
「あの、ティティさん、日も暮れてしまいますから、そろそろ出発しませんと」
どのくらい時がたったのだろうか。
ティティが一心に祈りを捧げていた背中に、ライがためらいがちに、声をかけてきた。
「ああ、そうだね」
目をあけ、前を見つめても、あの子たちはいない。
がらんとした広い空間が、広がるだけだ。
あんな巨体をしていたのに、妙に真面目にちゃんと並んで、なでられるのを待っていた。
また感情が引きずられそうになる。
いかん。今いるのは魔王領。それも未開の地である。
感傷に浸るのはあとだ。
<十分ひたっていたと思うがな>
スヴァ! いくらおまえでも、これを、茶化すのはゆるさないよ!
そう思って、ぎっとにらんだ先のスヴァは、静かな目で私を見返した。
<だが、礼をいう。あやつらも最後におぬしに会えて、嬉しかったであろう>
そうかな。そうだといいな。
それに、あの子たちはスヴァの臣下、いや仲間だ。
スヴァもつらかったのかな。
聞いてもきっと、教えてはくれないだろう。
今ほど、心を読めないのが悔しい。
「ねえね」
立ち上がったティティのそばに、ノアがそっと寄り添ってくれる。結界に入ったままだけどね。
そして、ノアも一緒に祈ってくれていたらしい。
「ありがとう、ノア」
「ううん。まものさんたち、かわいかったもの」
まだ目を若干うるうるさせながら、ノアは首を振った。
「ねえねは、だいじょぶ?」
まだ4歳なのに、他人を気遣えるなんて、うちの子は、めっちゃ優しい。
ちびっ子が黙って祈って待つのって、結構大変だと思うのに。
それでも祈ってくれたんだね、あの子たちのために。
「いい子だね、ノア」
「ん」
「ライも悪い」
「いいえ」
「さあ、先に進もうか」
「はい」
ライはどう思っているのだろうか。
7年前、ライは魔王を魔族を討伐する為に、この魔王領に来た。
そのときは11歳。
その年であれば、魔王は悪の権化である。この世の罪悪であると、信じて疑わなかった筈だ。
まして、ライは魔王や魔族の役割を知らない。
ライの目には、私は、あの子たちは、どう映ったのか。
スヴァは、あの子たちの役割を私に話してくれた。
魔王や魔族の役割を人間に話すのはタブー。
あの子たちの役割の話は、それに触れないのだろうか。
<我とそなたは魂が融合しているからな。問題ない。それにあれらのことよりも、深い秘密を知っておるだろう>
そっか。魔王と魔族の役割のことだね。
じゃあさ、スヴァが人間に話すのはタブーだけど、私がライに話すのもだめ?
スヴァは一瞬目をつむってから答えた。
<だめだろう、今は>
今はってことは、この先話せるようになるのかな?
<わからぬ。神か御使い次第か>
そっか。
もしかして、ライには私は裏切り者に見えたかな。
<大丈夫だろう。あやつがおぬしに不審を抱くことはあるまいて。どんなに疑わしい行動をしたとしてもな>
なにそれ。それはそれで、こわいんだけど。
<あやつらの役割についてだがな>
うん?
<御使いに聞いてみろ。あの小僧に話してもよいか>
え? 聞いたら、許可がでる可能性があるってこと?
<わからぬ。だが、あの小僧をここに連れてきた一因かもしれぬ>
それきりスヴァは黙ってしまった。
なんだよ。なんか意味深だな。
ここに来た意味って、私が生き延びる以外の理由が、あるってことか?
んなことある?
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