第459話 ティティ、どうにもならずに、苦悶する
大型の魔物を前にしてうちのノアってば、全然怖がってないし。大物だね。
でも、触るのはだめ!
<いや、なでてやってくれ。できればおぬしもな>
いやいや! スヴァまで、なんてこと言うの!?
いくら害意がないといっても、むちゃぶりだからねっ。
<素手では、なでるでないぞ。人魚の娘にもらった手袋をしたままだぞ>
いや、私、なでるって言ってないよ!?
<へるものでもあるまい>
いや、へるよ!?
私の神経ががりがりと!
<そやつらの最後の望みなのだ。かなえてやれ>
「そやつらって? なぜに複数形!? あ!!」
いつのまにか、目の前の魔物の後ろに、後2匹の大型の魔物が増えてる!
なんか順番待ちみたいに、先頭の後ろに並んでるよ!
行儀いいな!?
驚き2倍で、思わず声出ちゃったよ!
ライも警戒して、また剣を抜いてるよ!
「ああ、ライ! 大丈夫、大丈夫だから! 後ろにいる子たちも危険はないよ!」
「しかし!」
「本当、大丈夫! 考えてもみて! この子たちが本気になって攻撃してきたら、私たちなんてひとたまりもないから! 未だに攻撃してこないのは、本当敵意がないの!」
「‥‥‥わかりました」
ライがしぶしぶんながら、剣を収めてくれる。
ふう、やれやれ。
それで!スヴァ! 最後の望みってなにさ!
<この場所は、あやつらの死に場所なのだ>
そこでいったんスヴァが目を伏せた。
ああ、そうか。そっか、やっぱりか。
スヴァの言葉に、すこんと腑に落ちた。
この子たちの目。静かすぎる目が、こちらを不安にさせた。
<そやつらは、最初はそうだな、今の我くらいの大きさの魔物で、生まれる>
この巨大な魔物が、もとはスヴァのようにちんまい獣の姿だったの?
<我はそれほど小さくないぞ! んん。とにかく生まれたそやつらは魔草を喰らい、皮膚からも魔素を吸収して、どんどんと大きくなる。そういう身体になっている。成長とは違う。魔素をとにかく体内にため込むのだ。だいたい2、3年で、今の大きさになる>
2、3年で!? マジ!? 無理ないか!?
<そうだ。無理があるのだ。その無理の限界が、最大で3年だ>
そんな! 3年しか生きられないの?!
<そういう風に、作られている>
誰がそんな風に。神もしくは国守さまか。
文句を言いたい。
が、それも人を生かす為と言われたら、何も言えない。
<こやつらは本能的に死期が近づくと、ホープトーチを目指して、この地に来る>
だから、こんな開けた場所ができたのか。
えっ。でもさ、ホープトーチって、天の溶光がある場所だよね?
聖素、いや、神気まであるところじゃないの?
<しかり。ホープトーチは定期的に強い光を発する。こやつらはその光に中てられ、消滅する>
「そんな!」
ティティは思わず、叫んでしまう。
「ティティさん、どうしました?!」
ライが心配そうに、こちらを伺う。
それに答えられず、ティティは、首を振る。
な、なんで、あの子たちは、ここに来るの?
だって、この場にくれば、光に焼かれて消滅しちゃうんでしょ!?
逃げてよ!!
<明かりによる蛾のようなものだ。自分を消滅させるとわかっていても、近寄りたいと思ってしまうのだ。あの光に触れたいと>
「そんなのってない!」
<焦がれてしまうのだ。苦しくて、救いを求めてしまうのだ>
ひどいよ! そんなの!
<消滅は救いでもある>
もう苦しまなくていいからっ?
だけど、あの子たちが生まれてきた意味って。
<魔素を効率よく処分するために、あやつらは生まれてくるのだ>
ティティの目から涙がこぼれた。




