第45話 スヴァはがんこちん
「ふう。いいお湯だったな」
椅子に座りつつ、首にかけたタオルで汗を拭く。
疲れが一挙に取れた気がする。風呂は偉大だ。
それからティティは、いそいそとスヴァと自分の皿に一角兎の串焼きを並べ、スヴァの椀に水を入れる。
「これで一角兎パーティーの準備は万端だな!」
初の獲物だ、さぞや楽しみにしているだろうと、皿を持って下を見ると、自分の傍にちょこりと座って何やら考え込んでいる。
「スヴァ? どうしたよ? もしやジャイアントラビットをご所望だったか? すまんな。あれは少し大きすぎるので、機会をみてピースに焼いてもらうから、今日は我慢してくれ」
「違う。ちょっと気になってる事が頭を離れないのだ」
「なんだよ? この一角兎の串焼きよりも気になることか? それはよっぽどのことだな」
「比較にならんことを言うな」
このスヴァ、少し頭が固い。冗談が通じない。
まあ、いい。徐々に突っ込みを覚えさせよう。
ティティがそんな事を考えてるとは知らぬげに、スヴァは続ける。
「実はな、昨日今日、この街の周辺を見、そしてギルドの受付嬢の話などを聞いていて、、ふっと心に浮かんだものがあるのだ」
「んだよ。何が浮かんだって?」
あむりと一角兎を頬張る。もちろん、スヴァの皿も彼の前に配置済みである。
考えに集中しているのか手を付けていないが。
「うむ。この地方の不作の原因になりえるものがわかったかもしれぬ」
「ふお!」
驚きで、口から肉の破片が飛んだ。
「ああ~もったいない」
床に落ちた肉片を拾いながら悲観にくれる。3秒ルールで食っても大丈夫かな。いや、腹痛が怖いからやめておくか。
「って、それどころじゃねえ! マジか!?」
「うむ。ただ確信が持てぬ」
スヴァも鼻腔をくすぐる香ばしい匂いにつられたのか、一角兎を一口頬張る。
一角兎パーティどころではなくなってしまった。
うまいからいいか。
「だが、そんな事をして、何か得をするのか? 目的が分からぬ」
スヴァはもぐもぐ口を動かしながら、呟く。
「おい! 俺、さっぱりわかんねえよ。説明してくれ」
「ああ、わかった。そうだな。我の考えが正しいか否か、確かめる為には、お主の協力が必要だからな」
「もちろん! カミオが言ってだろう。不作の原因がわかったら、ご領主さまから褒賞金が出るって。きっとたっくさんでるぞ!」
それにランクにもその功績を反映してくれるらしい。
「我は金には興味はないが、考えが正しいかには興味がある。疑問をそのままにしておくことができない質でな」
「ばっか! 金があれば、美味しいもんが、色々食べられるんだぞ! 串焼きや肉巻き結びうまいだろ?」
「うむ。美味である」
「だろ? それだって、金がなけりゃ食えないんだぞ。金は大切だ! 美味しいもんの為に!」
「なるほど。了解である。金は大切だ」
スヴァは重々しく頷いた。
「しっかし、お前は物知りだなあ。山でも色々な植物動物についても詳しかったし、果てはこの地方の問題を解決できるかもってか?」
「まだ予測だ」
「それでも、昨日今日見て回っただけで、当たりを付けられたってことだろ? やっぱ、魔王に選ばれるだけあるんだな」
「いやな事を言うな」
「わり」
「我はただの獣にすぎない。ただ長く生きていたから、知識もあるだけだ」
いやただ生きていただけではないろう。魔王として生きるため、知識を吸収し、経験を積んできたに違いない。何とか生き延びる為に。
それとスヴァ自体の性格も加味されているに違いない。勉強が好きそうだ。
「なんだ? じっとみて。やらんぞ。これは我のものだ。我が狩って来たものだからな」
「違えよ!」
ティティは抗議の叫びをあげている間に、スヴァは食べ終えたようである。
「さて、腹ごなしの間に、我の予測を話してやる。明日以降、その仮説の検証をやってもらうぞ」
「やるって何を?」
「5つの湖に潜ってもらう」
「えええええええええええ!! なんでだよう!」
季節はまだ秋とはいえ、夏はとっくに過ぎた。ここの湖の水はとっても冷たいと聞く。
ここにスヴァは飛び込めという。
スヴァは魔王じゃなくて鬼だったか!!
「いやだあああ!」
「協力すると言っただろう」
必死に抵抗したが、スヴァはがんとして譲らなかった。
風邪ひいたら、スヴァのせいだからな!
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