第439話 ティティ、忘れていた。ガポーン。
「話しを進めても、よいか」
絶妙のタイミングで、国守さまが、再び口を開いた。
「あ、すいません。国守さま、お待たせして!」
ありがとう。国守さま! これで、根掘り葉掘り、聞かれずに済むよ。
直前で話すのではなく、もっと事前に話しておくべきだったなあ。
<お主は、行き当たりばったりだからの>
それは、否定しない。
あまり先々を考えるのは、苦手だ。
<スヴァが、私がへまをしないように、先を見ててくれれば、大丈夫さ>
それでうまく、バランスが、とれる筈。
「よい。其方らが話し合っている間に、結晶化した卵のカラの加工を、先に済ませておいたからの」
「「え!!」」
驚きの声が出たのは、私とブライトだ。
「なんじゃ? 何か都合が悪かったか?」
「いえ! ただ、その加工を見たかったなあと」
くそ!
ブライトも、すごい悔しそうな顔をしている。
「あっというまにきれきれになっちゃったよ」
ノアはちゃっかり泣きやんで、見ていたらしい。
羨ましい。
「カリアしゃんがポロリとして、ノア、びっくりしちゃった」
あ、人魚の涙で補強するって、言ってたもんな。
くそっ! 涙も見逃した!!
その出来上がったもの、上が凸型になった丸い金銀の入れ物が、国守さまの手に、のっていた。
人魚の赤ちゃんが出て来たであろう穴が加工されて、入れ物の入り口になったようだ。
「ティティよ。其方はこれから、これに天の溶光を溜めねばならない。それができた暁には、其方の魂は、安定するであろう」
そう国守さまは告げると、元人魚の卵のカラの入れ物はふわりと浮かんで、金のほうは私の胸元にすっと消え、もう一つの銀のほうはスヴァの胸に消えた。
「わわっ!」
<む>
そしてティティとスヴァの胸元には小さく、入れ物のあざができる。
なぜに、スヴァにも?
<其方と元魔王であるそこなものとは、魂が融合している。同時に救済しなければ、救われないのだ>
国守さまが、ブライトとライアンに聞こえないように、心話で答えをくれた。
なるほど、了解しました。
って、後で、ブライトたちに、なぜ銀の器がスヴァに行ったか、聞かれないといいな。
ううっ。今のうちに、理由考えておかないと。
「ありがとうございます。でもどうやって、これの出し入れをすればいいんですか?」
「頭で念じれば、出現する」
「なるほど」
一度試してみる。
形を念じて。
むーん。
「でません」
「そちは意外に不器用だな。従魔のほうは出現させたぞ」
「え、うそ」
足元にいるスヴァを見ると、確かにスヴァの前に、入れ物が浮いている。
「な、なぜ?」
<お主は考えが、あっちこっち言ってるからの>
よし! 集中!
「できない」
「仕方ないの。その器に名を付けて、イメージをしやすくするか」
国守さまは困った奴だというように、ため息をついた。
お手数かけます。
「そうですね。フルにしましょう。短くてよいでしょう」
うん。忘れなさそう。でもなぜにフル?
ま、いい。
満を持して!
「フル!」
ティティの掛け声とともに、先程の器が胸の前に浮かんだ。それを両手で受け止める。
「出た! よかった~」
よし。それじゃ、ついでに国守さまからの天の溶光とやらをもらっちゃおう。
「国守さま、私、無事にこの人魚の里に、辿りつけましたよね? それで、人魚の信頼を勝ち得て、人魚たちのお願いもききましたし」
うん。私、がんばった。課題に出されていないのに、人魚のお願いも聞いたし。いやまあ、カラをもらう為ではあったけれどもや。私、十分働いたよね。
ティティは、ほくほくと国守さまに、フルを差し出した。
「何を言っているのです? ここで渡すことはできませんよ?」
「ええ!? どういうことですか!?」
「人魚の卵のカラを得るのは、準備段階であり、何より其方自身の為でありましょう? それだけでは、いくら其方が私の愛し子と言えども、甘すぎるでしょう?」
「そ、そんな!」
「それに、アーリデアルトの森で申したではないですか。天の溶光は妾を癒やす泉だと。ここに泉はありますか?」
そうだった。そうだったけど!
「外にある大きな池が泉では?!」
ティティは苦し紛れに言ってみる。
「違います。見ればわかるでしょう?」
くっ。だめか。
<何を今更言っておる。最初の説明の時に、御使いが申していたではないか。ここは中継地点ぞ>
スヴァが追い打ちをかけてくる。
すっかり忘れてたよ!
人魚の里に着いて、もう目的達成した気になってたよ!
「とはいえ、ここに来る前に、2つの魂を掬ったのもありますし、泉のある最終目的地に着けば、すぐに天の溶光は手に入りましょう」
「そ、そうですか」
そうなんだ。
どうやら、天の溶光は、まだもらえないらしい。
期待させといて、ひどいぃ!!
<いや、繰り返すが、御使いはちゃんと説明していたぞ>
スヴァ、そんな冷静なコメントいらないからあ!
くう、まだ先があるってかあ!
ティティ、おあずけをくらいましたw
さて、これでディッセントヒル編は終了です。
いかがだったでしょうか?
これからまた少しお時間をいただきます。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
すみません!ディッセントヒル編最終話、前振りとちぐはぐのところがあったので、修正を入れました(汗)申し訳ありません。(修正R7年5月23日、24日)




