第429話 ティティ、スヴァに願う
「ねえね~!」
人魚のお姉さんが転移させてくれたノアは、目からも、鼻からも、大量に水分を出していた。
そのまま、しっかと、ティティにしがみつく。
「やあ! いなくなっちゃ、やあ!!」
えぐえぐと泣きながら、文句を言う。
「うん。ごめんね。わざとじゃないから」
「わざちょじゃなくても、だめだからあ!」
「あーはいはい。ごめんごめん」
身体を震わせながら訴えるノアを、しっかりと抱きしめてやる。
「あー。ごめんなさいね」
おねえさんが、申し訳なさそうな顔をする。
「いえ、お気になさらず」
本当は気にしてほしいけど、相手の都合もあるのだ。
「お主は、人がよいの」
スヴァが、後ろ足で耳を掻きつつ、呟く。
なんか、馬鹿にされてる?
しばらくしてやっと、ノアが泣き止んでくれた。
ノアの顔をハンカチで拭いてやり、ちーんをさせると、落ち着いたようだ。
しかし、しっかりとティティの服を、掴んでいる。
「ノア、歩けるか?」
「ん~」
「歩けないと、置いて行くしかないなあ」
「あゆく! ノア、あゆける!」
よしよし。可哀そうだけど、7歳のティティの身体では、長時間だっこするのはつらいからなあ。
おんぶしてもいいけど、身体を鍛える為にも、できるだけ歩いてもらおう。
ノアの手をしっかり握り、美人のお姉さんを見上げる。
「おまたせしました。行きましょう」
ライアンとブライト、そして従者たちよ、メッセージは受け取ったかな?
待ってておくれね。
遠くに見えていた、からぶき屋根の家。
結構、近くにあったよ。
これも人魚の里のトリックの一部かな。
とにかくも、へとへとになるまで歩く間もなく、人魚のお姉さんの家なのか、話し合う為のお家に着いた。
招かれた家は、周りにある家よりも、少し大きめの藁ぶき屋根の家だ。
玄関を通されると、居間だろう板の間の中央に、囲炉裏が切られていて、そこにはすでに火が入っており、部屋をちょうどいい具合に温めていた。
火がついてるに、誰もいないよ?
大丈夫なのか?
火の番をしていた人は、別の部屋に控えているのかもしれない。
だってきっと、今一緒にいる人魚のお姉さんは、この里の重要なポジションの人だろう。
国守さまからお客が行くよと言われたら、最上級の人が迎えに来るはずだ。
それに国守さまの導きとはいえ、危険な人物でないとはかぎらない。
とはいえ、スヴァはともかく、私とノアは、お姉さんと戦ったら、すぐにぷっちりされそうだから、そこは心配されてないかもしれない。
それにしても。
改めて部屋を見る。
いいねえ。囲炉裏がある部屋って。なんか落ち着く。
なんだろうか。火があるからなのかしら。
なぜか郷愁を誘われる。
違うよ! あのティティルナを捨てた、くそ親父の家とかじゃないよ!
浮かんだのはジオルの小さい時に世話になった教会の院長先生だ。
教会に囲炉裏はなかったけれど、思い浮かんだのは孤児院。
どうしてるかなあ。元気かなあ。
はっ。これが罠なのか。
こうして和ませて、油断させる気か。
<うむ。よく自分で、気づけたな>
スヴァが及第点をあげようというように、頷く。
なんかこの部屋、無理やりにでもリラックスさせようとする意図が、あるのかもしれないね。
気を引き締めないといけない。
「適当に座ってちょうだい。今、お茶を入れるわね」
お姉さんは、それに気づいているのか、いないのか。
特に気にする風もなく、美人な人魚さんは、部屋から見える台所に向かって、すぐに戻って来た。
予め、用意していたのだろう。
囲炉裏にかかっていた、土瓶から柄杓でお湯を掬うと、茶色いポットに入れ、少し蒸らしてから人数分の茶碗にお茶を注ぎ、こちらに振舞う。
うむ。少し苦いが、甘みもあってうまい。さっぱりする。
ノアには、少し苦いかな。
ティティの隣に座ったノアは、ふうふうしながらも、飲んで、ほっこりとしている。
うむ。ノアは、渋好みなのかな。
四歳でそれって、どうなの?
いや、好き嫌いできる環境では、なかったからな。
出されたものは黙って食べて飲む、の一択なのかもしれない。
くっ。ねえねがこれからたくさんおいしいものを、食べさせてやるからなっ。
また思考が脱線し始めたティティを、人魚のお姉さんが引き戻す。
「それじゃあ、まずは自己紹介からしましょうか」
さて、いよいよ、お話し合いだ。
スヴァ、よろしく頼むぞ!
私をしっかりフォローしてくれよ!
<他人頼みか>
決まってるだろう!
スヴァ頼りにしてるぞ!
他人に頼るのも大事w
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