第428話 ティティ、再度願う
人魚の里かあ。
今いる湖から、視線を遠くに向ければ、藁ぶき屋根の家々が見える。
その家からは、細い煙が立ち上がっている。
ご飯の支度でも、しているのだろうか。
そこはどこか懐かしく、切なくなるような風景。
帰りたくても帰れない、どこか郷愁を感じさせる里の姿があった。
「それが狙いだからな。気に入った人間の男を攫ってきては、死ぬまで、いや死んでも帰さない。ここの肥やしになってもらうように、考えられて作られている」
「こわっ! こわいよ!」
スヴァ、台無し! 台無しだから! 私の感傷をかえせ!
「ちょっと! なんで内幕を、ばらしちゃうの!? やめてちょうだい!」
「否定なし!?」
なんか、とんでもないところに来ちゃったかもしれない。
「うふふ。最初はそうかもしれないけど、皆ここに来ると幸せそうだから、いいのよ」
「いいのか!?」
「いいの。それより立ち話もなんだから、私の家で、話をしましょう?」
「あ、ちょっと待ってください」
ついて行きたいのは山々だけど、ここで長居するなら、せめて、丘の上で私たちを探しているだろう仲間に、状況を伝えたい。
欲をいえば。
「あの、仲間も連れていけないですか?」
「うーん。あまりこの里に、人を入れたくないのよねえ。あ、彼氏とかは別にしてね」
それはわかる。人魚を人と思わず、素材として狩る人たちは少なからずいるから。
「せめて、弟のノアだけでも呼んでもらえないでしょうか? あ、そういえば、私たちって、今どこにいるんですかね? いや、人魚の里ってのはわかってるんですが」
「今更か」
スヴァ、鋭いつっこみありがとう。
「どことは教えられないわねえ。けど、あの丘の中心から、転移してきたってことだけは教えてあげる」
「そうですか」
「何か所か、出入り口はあるんだけどね」
やっぱ。場所は、秘密なんだな。
「ん~。貴女の弟? 大泣きしてるみたいだから、その子だけは呼んであげるわ。後はダメ。でもそうね。心配するだろうから、メッセージは伝えてあげる」
「頼みます」
うん。それが譲歩できるギリだろう。
あまり無理を言ってはいけない。
こちらはなにせきっと大事であろう、卵のカラを貰うんだから。
人魚って卵生なんだよねえ。この綺麗な人が、卵から。
うーん。摩訶不思議。
ノア、置き去りで大泣き。ごめんね。
いつもお読みいただきありがとうございます!
少しでもおもしろいっと思っていただけましたら、ブクマ、評価をどうかよろしくお願い致します。
励みになります~。




