第42話 冒険者ギルドは情報の宝庫
長いです。
冒険者ギルドは基本年中無休である。ギルドに行けば、誰かしら職員がいる。
けれど、基本混む時間帯は、仕事が張り出される早朝、そして依頼を完了して帰宅する夕方である。
「混んでませんように」
そう願いつつ、冒険者ギルドの扉を力いっぱい押して中へと入る。
暗くなるにはまだ早い時間だからか、はたまたティティの願いが届いたのかはわからないか、奇跡的に空いていた。
「おお! 本日のラッキー2回目!」
ティティは嬉々として、カウンターに近づいた。
そこにはちょうど、依頼を処理してくれたカミオがいた。
「お疲れ様です!」
「はい。お疲れ様です。ティティちゃん、お元気でしたか?」
「はい、元気に依頼をこなしてました! 今日はこの前受けた依頼の達成報告です!」
「それはなによりですね。では、確認します、少々お待ちください」
そういうと、依頼台帳を確認するカミオ。
「はい、ティティちゃんが受けた依頼は、キヨセルラ草、イミデア草各10本ずつですね。では、カウンターに出してください」
「はい! わかりました!」
ティティは言われた通り、鞄から薬草を取り出して、カウンターに置いた。
「拝見します」
カミオはそれらが商品としてたえうるか確認する。
「はい。問題ないですね」
「やったあ!」
ティティはピョンと軽く飛んだ。
「ふふ。それでは、こちらが報酬です」
そういって、カウンターに報酬を出してくれた。
ティティはそれを自分が作った、小銭入れに入れながら、ぽそりとこぼす。
「なんとか採集することができて本当よかったです。カミラさんの言った通り、ちょっと大変でした」
「お疲れさまです。どちらまで行かれたのですか?」
「はい。カシワラの森とテフラ湖とコマルナ湖周辺を見て回りました」
「まあ。ティティちゃんまだ小さいから、それだけまわるの大変だったでしょう?」
「はい。でも、今後この街でお仕事するのに、できるだけ街の周りを見てみたいと思って、がんばりました。けど、タリオス湖までは遠くていけませんでした」
「そうですね。タリオス湖までは、馬車で行かないと日帰りは難しいですね。近くに村がありますが、宿泊施設も整っていないですから基本野宿ですが、ティティちゃんにはまだ危ないかな」
「そうなんですね」
いい事を聞いた。
「それで、カシワラの森、いえ、テフラ湖とコマルナ湖はどうでしたか?」
「依頼された薬草2つともなかったです。んー、それは正確じゃないか。数は少なかったけど、あるにはありました。けど、どれも地面から顔を出した程度のものしかなくて。他の薬草なども、ほとんどありませんでした。今回の薬草はカシワラの森で採取したものです」
そこでティティはわざとらしくため息をつく。
「思ってたよりも、時間がかかりました。一番下のランクのお仕事なので、もっと簡単に終わるかなと思ってました。お仕事ってこんな大変なんですね。次のEランクに上がるのは思ったより大変そうです」
そこで、またしょんぼりとして見せる。
「いえ! その、あの、お仕事は大変なのは、そうなのですよ! お金がもらえるのですからね! でもね、その、キヨセルラ草、イミデア草は、元々はもっと採集しやすい草なのですよ! でも、近年急に数が減ってしまってるんです。それは、この2つの薬草に限らずだけど」
「もしかして、タリオス湖や街の東側にあるタリ湖やキシュミール湖周辺もですか?」
「ええ。そうなのです。そのため最初にご案内した通り、薬草採集はカシワラの森に行った方が効率はいいですよ」
やっぱ、そうなのか。これは自分で確かめなくてもいいんじゃね。もうギルドが把握してんだから間違いないだろ。
「わかりました。情報助かりました。これからもアドバイスお願いします!」
ティティはぺこりと頭を下げる。
「ふふ。かしこまりました。そういえば、ティティちゃんは今回初の依頼だったんですよね」
「はい」
そう、イリオーネが買い取りをする時に、依頼書を確認して、受けた形にしてもらった以外で、自分で受けたのは初めてだ。
「イリオーネさんも言ってましたが、薬草に詳しいですね。今回も間違わないで採取できてますし特にギルドにある資料を参考にしてということもなかったですよね」
しまった。ジオルの知識があるし、スヴァの知識もあるから、そんな資料を見てなんて、ちっとも思わなかった。変に思われたか?
「あー、私山育ちだし、お母さんやお父さんが植物のこと教えてくれたんです」
「そうなんですね。いいご両親だね」
「はは」
ティティにあのくそ親が教えるわけねえ。けど、言い訳には使わせてもらうぜ。ちったあ役に立てもらわんとな。
「ご両親今どうしてるのかな?」
「あー、えっと」
やはり聞いてくるか。まあ流れではそうだろう。
ティティを山奥に捨てて、消えましたとは、言いたくないな。あまり、広めていい内容でもないしな。よっしゃ。
「その」
ティティは、口に握った手をやり、俯いた。
こうすれば、きっと更なる追及をしては来ないだろう。
「あ、ごめんね。もう聞かないから」
「うん」
よしよし。カミオは察してくれたようである。
良かった。
「それにしても、なんでこんなに薬草が採れなくなったんですかね。本当に原因がわからないんですか? 私、戦うことはまだできないから、薬草が採れないと困っちゃいます」
「そうですよね、わかります。でも、本当、原因がわからないんですよ。2年前から、急に採れなくなって。薬草だけじゃないんですよ。田畑の実りも悪くて」
そういや、酒屋のおっさんも言ってたな。
「特にお天気が悪かったからとか。魔物が大量発生したとか。そういった事はなかったんですか?」
「はい。天気だって大きな崩れはかったですし、日照不足でもないです。ここは湖も多いですから、水不足でもないです。みんな真面目に働いてる。なのに田畑の収穫が激減してるのです。放牧してる家畜たちも育ちが悪くて。今辺境伯や私たち冒険者ギルドもだけど、原因を突き止めよう頑張ってるのです」
「そうなんですか。特にどこら辺で、植物の育ちが悪いとかありますか?」
「そうですねえ」
カミオは考え込むように、顎に手を当てた。
「この地方には代表的な湖が5つあります。街の西側に3つ、東側に2つ。その周辺に麦や米を栽培しています。西側の湖にはティティちゃんも行かれたからわかるかと思いますが、麦畑元気がなかったと思います」
「うーん。遠目で見ただけなので、なんとも。でも穂は金色になってましたよ」
「その穂の中に今年ぎっしり実が詰まっていればいいのですが。聞こえてくる声では難しそうなんです」
酒屋の親父の言った通りか。
「このままだと、物の値段がどんどん上がっていって、住人に負担が増えるばかりです。」
「それもそうですが、作物が採れないと、飢える心配が出てきますよね。となると、税が払えないとかも出てくるか」
だから、ティティは捨てられたのか。
「ティティちゃん、すごいですね。そんな難しいことを考えられるなんて」
「あ、あはは! いやそれほどでも!」
えーい! 笑って誤魔化せ!
「でも、その通りです。このままでは、領民の生活は苦しくなるばかりです。そうなると暴動が起きたりして治安が悪くなって、安心して生活できなくなってしまいます。原因が分かれば対策も取りようがあるんですけど」
「実りが悪いのは、湖がある平地中心ということですか?」
「そうですね。田畑は湖の水を利用しているのですが、ここのところ年々収穫量が減ってるし、目に見えて、麦畑も、米を育ててる田んぼが元気がないんです」
カミオは困ったように、片手を頬にあてた。
「そうだったんですね。だから、なんか街が少し元気がないように思えたんですね」
「えっ! 確かティティちゃん、この街に来たの初めてではないですか? そのティティちゃんでも、そう思ったんですか? これは私たちが考えてるより深刻かもです」
カミオが顔色を悪くする。
「いや! はは。気のせいかもしれないです!」
ティティは初めてだが、ジオルはこのゴルデバに来たことがある。だからつい昔と比べてしまったのだ。
「ティティちゃんの情報参考になりました、ありがとうございます」
カミオはそこでずいっとティティに顔を寄せると囁いた。
「お礼に、こそっと耳寄り情報をお教えします。内緒ですよ」
「はい」
おっ!美味しい情報か。
「実は、近日中にこの地方の不作の原因を突き止めた者に、領主さまから報償がでるようになります! それも結構大金です!」
「えっ! それは、領主さま自身が、冒険者ギルドに依頼するってことですか!?」
ティティは驚いて叫んでしまう。
「しー!! です!」
「ごめんなさい!」
ティティは、急いで口に両手を当てた。
領主自らとは珍しいから、つい声が出てしまった。
けど、それだけ切羽詰まってるってことか?
「早ければ、明日明後日には発表がある筈です」
「うわ、そうなんですね」
領主が金を出してまでとは。思ったより深刻だな、おい。
そこまで追い詰められてんのか。それとも、手づまりになったからか?
まあ、ビッグニュースだな。俺には何とも関係ない話だが。
それにしても。
「それ私に今言ってもよかったんですか?」
てことだよ。
「ふふ。本当は内緒です。だからしーですよ?」
「はい」
「これで秘密をおあいこね」
ああ、気を使ってくれたのか。ティティの親の事を聞いてしまったから。俺は大丈夫なんだがな。まあ、ティティを気遣ってのことだ、ありがたいな。
ここは、カミオの気づかいにのってさらっとしとこう。
「それにしても、そこまでなんですね」
「そうなのです。ティティちゃんも、何か気づいた事があったら、お知らせくださいね? あ、でも、発表になったらですよ?」
「ええ~。私には無理ですよ。ここに来たばかりですし」
「はは。そうですね。でもちょっとしたことでも、気になることがあったら、言ってください。これは1人の冒険者や1パーティーが引き受ける依頼ではないですから」
「というと?」
「はい、広域依頼で、有益とこちらが判断した情報を持ってきたものに、報酬を与えるという感じですね」
「なるほど」
「だから、お気軽にね」
「はい。わかりました」
と、返事をしたものの、情報を得るには、人数、もしくは金が必要である。
ティティにはどちらもない。
大金を目指すよりも、地道に相応の依頼を受けてやっていく方がよさそうである。
「それで、今日は依頼は受けないのですか? よければ、ここで、処理しますが」
「カウンターが空いていたので、先にこちらに来たんです。これから依頼ボードを見てみます。でも、夕方だからいい依頼はないかな」
「そうだったのですね。依頼ですが、採集については、もしかしたら残っているかもですよ? 今話していた理由で薬草が不足気味ですから、常時依頼もありますし」
「そうだといいな。では見に行ってみます」
「はい。いってらっしゃい」
明日の朝また見に来るよりも、今受けられる依頼があれば、面倒がなくてよい。
どうか見つかりますように。
そう願いつつ、ティティは依頼ボードへ足を向けた。
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