第411話 ティティ、無常を思う
歩け。歩くんだ! 頑張れティティ!
そう念じつつ、亀の歩みで、ブライトの背中から下ろされたノアの元へと行く。
「ノア」
「ねえね!」
声をかけると、嬉しそうに腰にしがみついてきた。
「うお!」
倒れそうになるのをなんとか堪える。
「ねえね? だいじょうぶ?」
「うん。でも、ちょっと足がしびれてるから、回復するまでワイスと遊んでてくれるかな?」
「わかった!」
ノアはリュックからワイスを出すと、お散歩をさせ始める。
ふーい。転ばなくてよかった。
ノアったら、素直なんだから。
いや、実家にいたら、聞き訳がよくなるのかもしれんな。
私も結構忍耐強いと思うし。
<そうか?>
全然影響を受けた様子もないスヴァが呟く。
なんで平気なんだよ!
<さあ>
くっ。まあいい。
それから少し歩くと、ティティの足が、やっと少し復活した。
「はあ。やれやれだ」
しかし、思ったより早く着いたから、まだまだ明るい。
改めて元宿屋の建物を、見上げる。
数年経っているからか、なんとか立っているものの、使ってないんだろうなあって感じで寂れていた。
建物って人が住まないと、急激に劣化するっていうからなあ。
ましてここはアルステの森の中だ。森に飲み込まれるの、早そうだな。
前に来た時は、結構、人、入ってたぽいけどなあ。
入り口を封鎖された元宿屋見つめ、世の無常を思ったりして。
「ティティちゃん、ここに来てどうしようっていうの? 見ての通り、宿屋は野宿にも使えないよ。がっつり入り口閉まってるからね」
確かに魔物が入り込まないようにか、頑健に閉鎖されている。
にしてもブライトよ。もう少し浸らせてくれてもいいのではないかな。
<お主は、そういった感情よりも、食い気なのではないか?>
くっ! 確かにそうだけれども!
口では勝てなさそうなので、頭を切り替える。
「ふふ。私が用があるのは裏手なのさ。ノア、一緒に行く?」
「あい!」
ノアはワイスをリュックに入れると、ティティの隣に来る。
そのノアの手を引き、建物の裏手に回る。
そこには結構な広さの裏庭がある。
いや、大人の腰までくらいの高さまでの草がぼうぼうに生えているから、元庭かな。
もう、森に飲み込まれかけている。
そこで腕にいるニーネに話しかける。
「ニーネ。しばらくここにいるから、お散歩しておいで」
<わかったのー。いってくるのー>
ニーネは嬉しそうに林の中に入っていく。
「ノア、ワイスをもう一回出してあげな」
「うん」
ノアもリュックの中からワイスを出して、元裏庭に放つ。
ワイスはふんふんと匂いを嗅ぎながら、ゆっくりと移動する。
うん。よい餌が食べられるといいね。
「それで、裏庭に何があるんですか?」
ライアンとともに、後ろについて来ていた、ブライトが尋ねる。
「ふふ。実はね、前に来た時に、名物料理に使うメインの野菜、林に採りに行くのが大変だから、裏の庭で育てているって聞いてんだよねえ」
もちろんティティじゃないよ。ジオルの時ね。
そのジオル時代に見た時には、今いるここ、庭っていうよりもう畑だったね。
「だからね。ここを放棄しても、野菜は自生してるんじゃないかなって思ってさ」
ティティは草むらに入って、目当てのぶつを探し始める。
すると、狙い通り!お目当ての野菜があった。
「やった! やっぱりあった!」
ティティは、その緑の野菜を高々と掲げる。
ちょっとでこぼこした丸いフォルムの鮮やかな緑色の野菜、ポブロンだ。
「へえ。よくありましたね。人間が食べる野菜って、結構魔物も食べるっていうのに」
「うん。この野菜はちょっと苦みがあるからね。それに獣はいやがる匂いもあるしね」
そう。だから、茂っている可能性は高いかなって思ったんだよね。
「よし! 私とノアとそれとブライトはここで、野菜を収穫!」
「あい!」
「わかりました」
うむ。
「それじゃ、ライ!」
「はい」
「ライは何か狩って来て! 名物料理もどきつくるのに、肉が必要だから、できれば臭みのない獣がいいな」
「わかりました」
ライアンはそう返事をすると、すぐに林に消えていった。
<貴族に命令するなんてな>
いいの。美味しいものを食べるには、仕方ない事もある!
さあ! 今誰も食べないなんてもったいないから、収穫できるものは収穫するぞ!
ティティ、どろぼうではありませんw
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