第404話 ティティ、ふいをつかれる
ノアとライアンとスヴァと。
ピクニック用の布を引いて、お弁当を広げる。
そして、ワイスがゆるゆると目の前を移動するのを眺めながら、もしゅもしゅとサンドイッチを食べる。
いーね! 暑すぎず、寒すぎず。緑に囲まれて、食べるご飯、最高だね!
秋は深まっているのに、春のように暖かい。
<お手軽な奴だ>
なんだよ。スヴァだってそう言いつつ、美味しそうにサンドイッチ食べてるじゃないか。
幸せがお手軽なんて、最高じゃないか。
私は小難しいよりずっといいけどね。
さてと、昼ご飯も食べ終わったし、そろそろ動こうか。
このままお昼寝と行きたいところだが、私は我慢だ。
しかし、4歳児のノアには必要。
「ノアは少し、ここでお昼寝してな。疲れただろ?」
「のあもやくそうとるの、おてつだいしゅる」
気丈にもそう告げるノアだが、目をくしゅくしゅとこすっている。
お腹がくちくなったら、眠くなるのはお約束だ。
「だーめ! お昼寝ちゃんとしないと、大きくなれないぞ!」
「やー」
いやいやしながらも、もううつらうつらしている。
「スヴァ、ノアのこと見ててやって。なんかあぶなくなったら、ライに知らせてね」
<お主じゃないのか>
いや、私でもいいけど、弱いからね!
ライアンに直で知らせたほうが早く解決するからさ。
<了解した。少し落ち着いたら、また剣の訓練しなければな>
あー、そうだね。うん。私はともかく、ノアはベリーキュートだから、私が守ってやらないとね。
スヴァは守るようにノアの隣に蹲る。
その間にノアを横にならせて、お腹をポンポンしてやると、すぐにすーすーと寝息を立てだした。
うんうん。
いいこだね。この寝つきの良さは幼児の特権だねっ。
私も負けないけどっ。
今は我慢だ、お金の為だ!
ノアの傍をそっと離れると、薬草を探し始める。
と、ティティの後ろをライアンがついてくる。
んー。レアな薬草とかわかるなら、別れて採集したほうが効率がいいけど、昨日どのくらいヒースたちに教えてもらったのかな?
「ライ。どのくらい、薬草について、教えてもらったの?」
「本での知識もありますし、昨日、祠の周辺の薬草や木の実などについては、教えてもらっております」
「そっか、なら、わかる範囲で一人で採集して。後で私が確認するから」
あ、宿に帰ってからブライトに頼んでもいいかも。
「ティティさん、独りで大丈夫ですか。この森には魔物はいないそうですが、普通の獣はいるので、危険では?」
「大丈夫。ここは国守さまのお膝元で、私は国守さまの一応愛し子だからね! この森では安全だよ」
くっ、自分で愛し子っていうのは本当恥ずかしいよ。でも一番効力のある言葉だからなあ。
案の定ライアンは反対せずに頷いて、ティティから離れて、薬草を探し始めた。
ふう。国守さまの後ろ盾は偉大である。
さてと、時間もない事だし、私もさっさと薬草採りしなきゃ。
そうしてしばしの間、ティティは薬草採取に勤しむ。
そうした中。
「おお!」
なんと高額買取してくれるものを、見つけてしまった!
ランチェスがたわわに実っているのを見つけたのである。
それも赤と黄色がたくさんある。
金貨だ! 金貨が、たくさん生っているぞう!
「絶対ゲッドしないと!」
しかし問題が一つ。そのランチェスは大きな木の頂上付近に、蔓を巻きつけて生っているのである。
見上げながら、むーんと顎に手を当てて考える。
「私が行きましょうか?」
いつの間に来たのか、隣でライアンが同じ木を見上げている。
「うーん。ランチェス、採取したことある?」
「残念ながら」
「そっか。じゃ、私が行くよ。ライは下で見てて」
採取は難しくないけど、やったことある私が行くのが一番だからね。
なんせ、金貨に変わる実だからねっ。
大分腕に筋肉ついたし、落ちる事はないとは思う。
「わかりました」
ライはそれでも自分が行きたそうにしていたが、言葉を飲み込んでくれたようだ。
何かあったら、自分が助ければいいと思ってくれたようだ。
ありがとう、冷静な判断してくれて。
うん、やっぱ子供のほうが身軽だしね。
「よし! 行ってくるよ!」
ティティは、するするとランチェスがある木を登っていった。
やっぱ、子供の身体だと登りやすいねっ。
順調にランチェスの生ってるところまで着いたよ。
「くふふ。これは高く売れそうだ」
売る時の交渉は、ブライトに任せたほうがいいよね。
収穫したランチェスを見ながら、顔を緩ませる。
これだけでも、今日は十分な収穫だ。
手に届く範囲に生っているものを粗方取り終えて、ふっと目線を周りに向けた。
「この森をこんな上から見たの、初めてだな」
空気がいいんだろうなあ。それに聖素も舞ってる。
「すっげー、キラキラしてるよ」
これも絶景っていう景色だろうなあ。この光景を残しておきたい。
紙! 誰か紙をくれっ!
と、そんなことを思っていた時。
くいっと腕が引かれた。
「えっ!?」
誰よ! あぶないじゃないかっ!
と、思った時には、手が枝から離れ、落下が始まっていた。
「え? えええええええええええ!!!」
木の上では、むやみに人の腕を、引っ張ってはいけませんw
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