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第398話 ティティ、ころりと騙される

「吾輩がその場につけば、何か感じるやもしれぬぞ」

 いつの間にやら、足元に来ていたワイスが口を挟んで来た。

「吾輩は優秀だからなっ! 御使いさまの御心の一端を掴むのも、たやすかろう」

 ノアがにこにこと笑いながら、首を大いにそらせたワイスをお膝の上に乗せる。

「え、本当? てか、ちょっとワイス! 君が人語を話せるって言ってないんだけどっ」

「妖精のようですし、妖精って、人の言葉通じるっていいますから、別に驚きませんよ?」

 ブライトが当然のように頷く。

「そ? ならいいけど」

 えっ! それって常識なの?!

 ふう。世界は広いぜ。

<ばかめ。奴の顔を見てみろ>

 スヴァが、心話でぼそりと呟く。

「えっ?」

 あ、なんかにやにやしてる!

「ちょっ! ブライト、うそなの?!」

 騙された!

「あはは。うそじゃないよ。騎士なんてやってると、不可思議な事に出会うことも多々あるから、妖精ならしゃべっても不思議はないかなって、思っただけ」

「む~。それならそうと言ってくれればいいのに」

「ごめん、ごめん。ティティちゃんの素直な反応が面白くて」

「こっちは面白くないから」

 次は騙されないぞ!

「これ! 話の途中じゃぞ! 吾輩の話を聞かんか!」

 ワイスが無視されてお冠のようである。

 しかし年寄くさい話し方だな。ワイスまだ若輩だって言ってたよね?

<妖精としてはだろう>

 そっか。人基準にすると年寄りなのかもな。

 それは置いておこう。そこを突っ込むと、うるさそうだ。

「ごめんごめん、続けて、ワイス」

「今度はちゃんときけ。吾輩たちは清浄な地を好む。それはつまりは大気を読む力があると言う事じゃ」

「それってつまりはどういうこと?」

「人魚の住処であれば、大気の流れも違おう。それを感じとれるやもしれぬ」

「なるほど?」

 それで?

「その流れの違う方向を探せば、人魚の里へのヒントが見つかるかもしれないってことか」

 それまで黙って聞いていたライアンが、考え深げに呟いた。

 なるほど! うわあ。この亀さん、結構できる亀だったらしい。

「えらいねー。ワイス」

 ノアがワイスの頭を、人差し指で撫でる。

「あ、和んでるところすまないけど、1つ忠告」

 ブライトが手を挙げる。

「なに?」

「俺たちだけの時はいいですけど、亀は普通しゃべらないですから、人がいる場では控えたほうがいいと思いますよ。普通の亀じゃないとわかれば、攫われちゃいますよ?」

 そっか。なんかそこら辺がマヒしてるから、気づかなかった。

 ほら、うちではスヴァも、ニーネも話すからね。私にだけだけど。

「わかった。そうだよね。うんうん、ワイス、そう言う事だから、このメンバー以外がいる時は、お口にチャックでお願いします」

「うむ。心得た」

 しかし、スヴァといい、亀さんと言い、言葉が古風だね。

 個性があっていいけど。

<さっきは年よりくさいと申していたが?>

 はて? なんのことやら?

「じゃあ、旅の当面の目的地はディッセントヒルでいいのかな」

「うん」

「じゃ、会議は終わり?」

 ブライトが締めくくりとして確認してくる。

 そこで、しばし躊躇う。

 どうしよう。私の身体のことをここで話しちゃう?

 ライアンはともかく、ブライトがなあ。

 まだ短い付き合いだし。

 今後どうなるかわからないし。様子を見たいなあ。

<人魚の里で卵のカラを手にいれてからでよいのではないか? そこでまた状況も変わってくることもあろう。弱みはなるべく知らせるべきでないしな>

 スヴァが迷うティティに、方向を示してくれる。

 そっか。国守さまが人魚の里に入れたら来てくれるっていうし、そこで国守さまの審査を通ればブライトを信頼していいというお墨付きがつくかもしれない。

 だけど、なんかこう友達を疑うようで、いい気持ちはしないなあ。

<仕方なかろう。命がかかっているのだ。そのくらい、用心深くしてもよいのではないか。弱点になるのだからな>

 そうだね。うん。そう思うようにしておこう。

「うん。以上かな」

「じゃあ、これからすぐに出る?」

「いや! ブライトの話を聞いたら、もう少しこの村で食料を買っておきたいし、寄りたい店もあるから、出発は明日にしましょう!」

 そう! 美味しいものを買い込むぞう!

会議終了です。

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