第39話 森は楽しい。花は癒し 飯はうまし
少し長めです
カーン、カーン。
6時を知らせる鐘の音。それは同時に城壁の開門を知らせる鐘の音だ。
「行こう!」
ティティとスヴァは街の外へ向かう人々の列に並び、順番に外へと流れ出た。
残念ながら、今日はハンクはいなかった。
「気合を入れて行くぞ!」
今日はカシワラの森でバリバリ採集する。昨日いくら周辺調査が主としても、何も収穫できずに、帰って来たのはストレスがたまった。
それを解消する意味もあり、ティティはかなり張り切っていた。
朝一から城壁の門に来て、今か今かと開門を待っていたのだ。
まだ暗いうちから、起き出して、顔を洗い、歯を磨いて支度をする。
朝食も腹を落ち着かせるくらいで切り上げて来た。
どうせ、すぐに腹が減るだろうから、森で一仕事したら、休憩がてらがっつりと食べればいい。
森には一昨日来たばかりだし、ジオル時代にも来たことがあるので、迷いなく進む。
「依頼の薬草はもう手に入れたから、もう少し高めに買い取ってもらえるものが見つかるといいなあ」
例えばポーションの材料になる薬草や木の実が望ましい。
このゴルデバは隣国との国境に一番近い町で、隣国の動きを常に警戒しなければならない。
その為、辺境伯独自の騎士団がある。
その騎士団は常に訓練を怠らない。
となれば、けがは日常茶飯事である。
その為、切り傷や擦り傷に塗る軟膏の材料になる薬草。怪我を治すポーション材料は需要が高いのだ。
ティティはそれらを狙っていた。
「おお! あったあった」
1時間ほど歩いただろうか。ようやくちらほらと薬草が見つかり始めた。
「それにしても、ここに来るまで、魔物に一度も会わなかったなあ。昨日会わなかったのはわかるが、この森なら食べ物もあるし、小さい魔物に会いそうなものだが」
「我がいるからだろう」
「へ?」
「我は力を落としたとはいえ、元魔王ぞ。生半可な魔物は寄ってこないだろう」
「なるほど。スヴァお前便利な奴だな。あ、でもとすると、私狩りの練習できないじゃんか」
「我が気配を消せば、問題なかろう。我が獲物を狩る時もそうしている」
「はあ。お前頭いいな!」
「そうか? 普通だろう」
「なんにせよ。お前がいれば、魔物に襲われる心配は激減する訳だ」
「我の気配を察しない、魔物もおるから、一概には安心できんがな」
「わかった。頭に入れておくよ。おし! どしどし取って行くぞ! スヴァも頼むな!」
「ああ」
1人と1匹は手分けして、採取をしていく。
全部は取らない。ある程度は残す。それが採集の常識である。全部取ってしまったら、来年から取れなくなってしまうからだ。
「よし! この辺ではこれくらいでいいだろう。大量大量。スヴァ!!」
「こっちだ」
声のするほうに行くと、蔓を引っ張って実を落としたのか。貴重なポーション材料が山になっていた。
「うほ! やったね!」
ティティはそれらを亜空間に次々と入れていく。
「うん。少し小腹も空いて来たし、一休みしようぜ。どこで食べようか? できれば、花など愛でつつ食べたいなあ」
「花か。それならついてこい」
スヴァは鼻をクンと一つ動かすと、小走りに走り出した。
「お、いい場所があるのか?」
ティティは素直についていく。
スヴァは歩く、まだまだ歩く。
「おーい。まだかよ。腹が激減だよう。早くなんか食べたいぞう」
「もう少しだ。花を愛でながら、食べたいといったのは、お主だろうが」
「そうだけど、花よりもう飯が食いたいよ」
泣き言を言いつつも、何とかついていく。
「ほら、ついたぞ。見ろ」
そう言われた視線の先。
「わあああ!」
木の間を抜けた先は、一面紫色の花畑になっていた。
「プチメヤの花じゃねえか! すげえ! こんないっぱい!」
道なき道を進んだ先に、こんな場所があったなんて。
このプチメヤの花は高級ポーションの材料である。花も、葉も、根もすべて使える。
栽培は困難なうえ、咲く時期が不定期で決まっていない。不思議な花なのである。
その為、超レアな花なのである。
「スヴァ! お前すげえの見つけてくれたな! これで、当分お金には困らねえぞ!」
「我は花を探しただけだ。珍しい花だとは知っていたがな」
そうか。魔王や魔族はポーションを必要としないのかもしれない。
確か戦った時も、すぐに傷を治してしまっていた魔族たち。あれはへこんだ。強い上に、自己修復能力に長けている魔族たち。二度と戦いたくない相手である。
「スヴァ、ありがとな! 花としても綺麗だからな。まずはじっくりと飯を食いながら、堪能してから採集しようぜ」
「うむ」
ティティは亜空間から、串焼きと肉むすびを取り出して、皿に盛るとスヴァの前に置く。今日はおまけして山で採って来た木の実もつける。
自分用にも同じように皿に盛ると、スヴァの隣に座り、食べ始める。
風に吹かれて、プチメヤの紫が揺れる。
「なんか幻想的だなあ。いつもの肉が余計にうまく感じるな」
「トゲボウシ、もっとくれ」
「ちぇ。スヴァお前風情がないなあ。ほいよ」
不満を口にしつつも、更に追加の木の実を入れてやる。
「肉も果物も、残り少なくなってきたから、また市場に行かないとな」
「果物か。いいな。甘い果物を所望する」
「うん。プチメヤの花畑を見つけてくれたんだ。いっぱい買ってやるよ」
「うむ」
顔は平静だが、尻尾がぷりぷりと揺れた。
ティティの顔が緩む。可愛すぎる。
しかし、ここでそれを指摘すれば、機嫌を損ねるのは確実である。
わしゃわしゃしたいのを我慢して、ティティは立ち上がった。
「よし! 一服できたし、プチメヤの花を採集するぞ」
「我は、狩りに行ってくる」
「了解。あんまり遠くへは行かないでくれよ。お前がいなくなった途端、魔物にガブリは勘弁してもらいたいからな」
いくら、武器を揃えたとはいえ、まだまだひ弱な、がりがりの少女だ。魔物が出たら、ちょいいや
かなり自信がない。
「わかった。善処しよう」
「おお、頼むぞ」
スヴァの背中をポンポンと叩く。
「じゃ、互いに仕事開始だ」
色々迷いつつ、書き進めています。
少しでも楽しく読んでいただけますように。
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