第38話 収穫がないと疲れ倍増
ティティはコマルナ湖の調査を終えると、急いで街へと帰って来た。
街に着いたのは、日の暮れる寸前。
暗くなってからの、幼女の一人歩きは危険である。
危険回避のため、それと多大な疲労の為、真っすぐに宿へと直帰である。
「ただいま帰りました。ティティです。鍵をお願いします」
今日の宿の受付の人は可愛らしい女性だ。名前はパームさん。栗色のクリンとした髪がチャーミングな女性である。ちょっと癒された。
「ティティさまですね。おかえりなさいませ。少々お待ちください」
そうって、宿泊名簿を見た受付の人は、鍵をすぐに渡してくれる。
「ありがとうございます」
ティティはゆっくりと階段を昇った。
もう足が限界である。
これは、ご飯を食べて、お風呂に入ったら、マッサージをしなくては明日に響きそうだ。
「ふう」
無事部屋に辿り着き、中へ入ると、知らず息が漏れる。
ああ、疲れた。
「にしても、ゴルデバどうなっちまったんだろうなあ」
ティティは昼食を取った後、コマルナ湖の周辺を1時間ほどかけて見て回った。
結果。収穫なし。 これで意義のある収穫があれば、疲れも半減するのだが、一言でいえば骨折り損のくたびれ儲けだった。
テフラ湖に続き、空振りである。
「薬草だけでなく、雑草さえも少なくなるってのはいったいどういうこった」
湖があり、水も豊富な地域だ。
「陽気も悪くないし、なんでだ?」
植物が育たない理由がわからん。
ティティの記憶を辿れば、今年の気候は決して悪くなかった。天気もメリハリが聞いて水不足も日照不足もない。なのに、今年も不作だと酒屋のバドのおっさんは言っていた。
「そういや、今年に限らず、去年もそう天候は悪くなかった」
ならなぜ不作が続く。
「薬草も生えてはいるが小振りで元気がないし、少ねえ。スヴァの言う通り、生気がねえ感じだ」
このままの状態が長く続けば、ひどい飢饉に苦しむだろう。
「いや、もう俺がそのあおりを食らってるけどな」
いったい何が原因なのか?ティティは首を捻る。
「なあ、スヴァ、お前、どう思う?」
スヴァに話を振る。
「スヴァ?」
返事がないので、下を見ると、何やら考えに沈んでいるようである。
「スヴァ?」
「あ、ああ。なんでもない」
「そうか?」
どうみてもなんでもないようには見えないが。
まあ、本人が言いたくなさそうだから、無理には聞かないが。
「まあ、テフラ湖とコマルナ湖周辺を様子がわかってよかったと思おう! なきゃやってらんねえ! タリオス湖もきっとおんなじような感じだろう! もう見に行かなくていいか!」
「タリオス湖は調べないのか? それに街の東側も調べて置いたほうがいいのではないか?」
街の東側には、タリ湖、キシュミール湖がある。
「ん~? なんか見に行くだけ損なような気がしてきたし。気が進まないがなあ」
「しばらく、ここでランクあげをするなら、タリオス湖や東側も調べて置くべきではないか?」
「そ、そうか?」
「そうだ。最初にすべての地域を見ておいた方がよいのではないか」
「そら、そうだけど」
なんかすっげえ積極的なんすけど。何がスヴァをそんなに駆り立ててるんだ。
「よし決まりだな。なら、明日は東、明後日は南側を見ておこう」
「ちょ、待て待て。連日で空振りになるのはいやだよ! 明日はまたカシワラの森に行って採集する! じゃないと精神的に辛い。それからでないと、行かないからな! それに明日はギルドに行かないと依頼の期限日だし! 何より金を稼ぐのが先だ!」
「仕方あるまい。明日は森へ行こう。だが、早めにタリオス湖や町の西も調べに行く。よいか?」
「あ、ああ」
うむを言わせずに、スヴァが今後の予定を仕切ってきた。これは調べないという選択肢はなさそうだ。なんなんだよ、もう。まあ、必要なことかと思うからいいけど。
これは、夕ご飯を食べて、気分を浮上させなきゃやってられない。
とは言っても、夕飯を買いに行く気力もなかったので、亜空間にある買い置きしかないのが、ちょっと辛い。
とは言っても、旨いものをストックしてあるのだから、ましである。
「スヴァ、ひとまず飯食おうぜ」
ティティはそう言って、部屋に一つしかない椅子にふらふら近づき座る。
「うーい」
座った途端、思わず声が漏れた
「お主、言葉遣いが少女のそれではないぞ」
「お前と2人きりの時ぐらい見逃してくれよ~。マジ疲れたんだよ」
「外では気をつけろよ」
「はいよ」
どうやら見逃してくれるらしい。
「そらよ」
スヴァに串から外した焼き鳥を皿に盛り、床に置いてやる。
そして自分も肉串にかぶりつく。
熱々だ。それがぐっと腹にくる。少し元気が出た。
今日は、この肉串と飲み物は水だ。贅沢といわれるかもしれないが、まだ秋だし、疲れた体に染みわたるような熱々の具沢山スープが飲みたいところだ。
スープに固めのパンを付けて食べれば、お腹もより膨れる。
肉もいいが、他も色々食べたい。
できれば、店で食べたい。しかし、ティティはまだ7歳の少女だ。
夜一人で手ごろな食堂で食べるとなると、良からぬ輩に絡まれる率が高い。
かといって、毎回ちと高い食堂を使うのは、予算的に無理だ。それにスヴァもいる。
「男だったらまだよかったがなあ」
それはもう仕方がない。
でも、夜はできれば汁物が食べたい。これから来る冬になれば、なおさらである。
どうやらったら、温かい汁物が食べられるか。
今日買ったスープ皿に入れて、亜空間にしまうか? 鍋を買うか?
皿のまま、あるいは鍋を鞄に入れたら不自然すぎる。
なら、皮の水筒をもう一つ買って、そこに入れてもらうか?
皮にスープの匂いが付きそうだし、洗うのが大変そうだ。
「うーむ」
肉を頬張り、ティティは唸る。
「どうした?」
「いや、やっぱ、夜はあったかいスープが飲みたいなと思ってよ」
ボリューム満点のスープなら栄養もばっちりだ。
「店に入って食べればよいだろう。ああ」
そこで、スヴァも気が付いたようである。
「女の子1人じゃ危ないだろう。お前もまだ小さいしな」
「そうなのか? 我は小さくとも強いぞ」
「そうかもしんねえけど、無駄な争いは避けたいんだよ。うーん。なんか蓋つきの入れ物があればいいけど、そんなんあるか?」
ステラの雑貨店では見当たらなかった。
「あーあ。少し自分で身の安全が図れるようになるまで、我慢かな」
「いや、そんなことはないぞ」
「お?」
「昔、丁度いい容器を見た事がある」
「おお! マジか?」
「ただ、人間の街では売ってないと思う」
「なんだよ。あ、でも作ってもらうか? スヴァ、それって人間に作れるものか?」
「ああ、構造は簡単だ。ただ、作るのは面倒かもしれぬ」
「とりあえず教えてくれよ」
「うむ。それは」
とスヴァが説明をする。
「うーん。大体わかった。デルのおっさんに作ってもらおう!」
しかし、言葉だけの説明では、細かい部分の詰めが難しそうだ。スヴァが直接説明できればいいが、それはできない。
「よし! 明日、石板を買おう!」
「石板?」
「ああ! 石板に絵を描いて説明したほうが、間違いなさそうだ。描いていけば、間違いないしな
」
そうスヴァに予めチェックしてもらえる。
「そうだな。そのほうがわかりやすかもしれぬ」
「後、ついでに、洗濯ものを干すロープか棒が欲しいな」
「棒?」
「ああ、ほら、部屋干しするのに、この椅子と机を台にして棒を渡すと洗濯物を干せるだろ?」
椅子と机を示して、説明する。
今泊まってる宿なら、金さえ払えば、洗濯も頼めるが、できるだけ節約したい。
「亜空間があれば、長い棒もしまえるし。またステラさんとこで買うか」
「ならば、三節棍を買ったほうがよい」
「三節棍?」
「うむ。三つに折れる棒状武器だ。ただの棒を買うよりもいざという時に使える武器の方が良かろう」
「へえ。そんなのあるんだ? 見た事ねえぞ」
「うむ。この国にはない武器かもしれぬ」
「ほうほう。流石元魔王さまだ。じゃ、デルのとこで売ってなかったら、それも作ってもらうか!」
1つで2つ用途があるのがいい。
「金は大丈夫か?」
「ぐっ! そうだな! まだきのこ類があるし、いざとなればゴールドシープの角もをある」
けど、保険としてなるべく温存しておきたい。
「明日は気合を入れて、森を採集する! スヴァ手伝ってくれよ!」
「よかろう。」
「そうと決まれば、風呂に入って、マッサージしてから、早く寝るぞ」
ティティは気合を入れて立ち上がった。
金は安全を買える。いっぱい稼ぐぞ!!
空振りすると疲れ倍増ですよね。
今日は七夕、皆様が健やかに過ごせますように。




