第37話 湖探索!
翌日。ティティは朝早くから宿を飛び出した。リュックを背負っているが、ほとんどの荷物は亜空間入れてあるので、軽い。
<今日はどこにいくのだ?>
それにお供するスヴァが横から心話で尋ねる。
「うん。この街で活動するなら、街の周りがどんな状況か知っておいた方がいいだろうからな。今日は西の門から湖に足を伸ばしてみようかと思ってな」
<湖か。西というとテフラ湖、コマルナ湖、タリオス湖があるな>
「お、よく知ってるな」
<ふん。魔王時代、時間だけはたっぷりとあったからな。この国の地形など頭に入ってる>
「色々と出歩いたりしたのか?」
<出歩くのはあまりできなかったな。遠見の鏡で色々な場所を見たりしていた>
「そっか」
うむ。魔王がほいほい出歩くのもまずいか。
「タリオス湖までは遠すぎて足を伸ばすのは難しいから、今日行くのは、街から一番近いテフラ湖と少し頑張ってコマルナ湖までだ。行くのは初めてか」
<そうだな>
「じゃあ、楽しみだな。俺も久しぶりだし、張り切って行こうぜ。と、まずは昼飯を屋台で仕入れてからだ」
ティティは下町の中央広場へと足を向けた。
「マジでないわ」
1時間ほどかけてやってきたのは、街から一番近いテフラ湖である。
湖に来る道中も、売れる薬草や食べられるものが植わってないか探しながら来たのだが、全くと言っていいほどに見当たらない。
「こりゃ昨日森でキヨセルラ草とイミデア草を採取しておいて正解だったな」
以前ゴルデバに来た時には(それはもちろんジオル時代だ)、キヨセルラ草とイミデア草はわさわさ生えていた筈である。それも街の外に出たら、すぐに見つかった。なのに、全く見当たらない。いや、生えてはいるが、規格に見合うほどに育っていないのである。
「とりあえず、湖周辺を歩いてみるか」
いやな予感をひしひし感じつつも、探索を開始した。
「はあ。まじかよ」
ティティはテフラ湖の周りを一時間ほどかけて薬草を探し回った。が、一向に満足のいく薬草がない。どれもこれも未熟で、ギルドにNGを出されるサイズばかりである。
そんな育ち切っていないものを探すのでも、困難だ。
こんな状況だと、ティティが受けた依頼は、FランクじゃなくてEランクでもいいんじゃね?って思うくらいにない。
「なんでだろうなあ。天気もいいし、湖の近くで水も豊富だし、わっかんねえなあ」
こんなにも植物がない原因がわからず、首を傾げてしまう。なるほど、冒険者ギルドも困る訳である。
「スヴァどう思う?」
「我は冒険者をしたことがないゆえなんともいえぬ。ただ、大地に生気がないのはわかる」
「生気?」
「うむ。ありていにいえば元気がない。エネルギーが感じられぬ」
「エネルギーねえ」
スヴァがいうなら、そうなのだろうが、ティティには全くわからない。
そのエネルギーがないから、薬草が生えてないのか。
「これは、次のコマルナ湖も期待できないかもなあ」
無駄足になりそうな感じが、ひしひしとする。
しかし今後の事を考えると、見ておくべきだろう。
そうしないと、無駄に歩きまわることになる。
「うし。これから少し駆け足で、2番目のコマルナ湖まで行ってみようぜ。そこで昼飯にしよう」
「わかった」
「あーあ。どうかコマルナ湖では薬草わさわさしててくれよ」
そう願いつつ、ティティはスヴァを連れて走り始めた。
「はあ。ったくよ。どうなってんだよ。薬草激減しすぎだろ。それに魔物の数もへってんじゃね?」
2時間ほどかけてやって来たのは、コマルナ湖。
ここに来るまで薬草もなければ、魔物もいなかった。一体どうしたというのか。
食べ物がないから、魔物も動物もいないのか。
はむりと串焼き肉を食べつつ、愚痴る。
昼食に丁度良い時間だったので、休憩を含めティティはコマルナ湖岸で昼食を取っていた。
ティティの横で、スヴァも肉にかぶりついている。
本日の昼食はがっつり豚肉の串焼きである。
亜空間に入れてあったので、買った時のまま、熱々の肉汁が舌に腹に染みる。
「あー、やっぱ肉はいいよなあ。疲れが飛ぶぜ」
目を瞑って、じっくり味わうティティ。
「それに、眺めもいいから、余計にうまい」
そう、目を開けて遠くを眺めれば、木々の合間から、金色の麦畑が見える。風に吹かれて穂が揺れている。もうすぐ収穫の時期だ。
元気に育っているようにみえるが、果たしてどうか。
酒屋のおっちゃんの話を聞くと怪しい。
目に眩しいこの金色は見せかけだけなのかもしれない。
「タリオス湖の周辺もおんなじような感じなのかねえ」
タリオス湖までは、徒歩では少し遠い。
馬車で行かないと難しいだろう。見に行って何も収穫なしじゃ、足が出てしまう。
「我はタリオス湖も見てみたい」
いつもは特に意見をしない、スヴァが珍しい。
「なら、今日は無理だが、時期を見て行ってみっか」
「ああ」
「それじゃ、今日はコマルナ湖の周辺を見て、帰るか」
「そうしたほうがいいだろう。それにしてもお主、体力は大丈夫か?」
「ああ、まだ大丈夫だぜ。この辺の植物の生育を調べるんだから、走る必要はねえから、歩きなら何とかな」
「そうか、無理はするなよ。夜にまたうめき声を聞くのは、ごめんだぞ」
宿に帰るとやはり安心するのか、筋肉が悲鳴を上げるのだ。
「はは。了解。身体と相談しつつ、頑張るよ。お、もう食べ終わったか? なら皿、貸せ。湖で洗っちまうから」
ティティはそう言って、スヴァの皿を取り上げると、湖で洗う。
「それにしても、すっげえ水が澄んでんな。前からこんなに澄んでたか?」
ティティは湖をのぞき込んで、魚を探す。
「こんなに綺麗なのに、魚が見えねえ。どっか岩陰に隠れてんのか?一匹ぐらいいてもよさそうだなのに」
スヴァもティティの横で、湖をのぞき込んでいる。
「どうした? スヴァ、泳ぐには、もう水は冷たいぞ」
「ああ、ちょっと気になってな」
「うん?」
「いや。それよりぐずぐずしていると日が暮れるぞ」
「そうだな。もうひと踏ん張りするか」
ティティは皿を亜空間にしまうと、立ち上がった。
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