第371話 ティティ、ニーネを大切に思う
<課題は無事達成したであるな>
国守のその言葉にティティはよっしゃ!と心の中でガッツポーズをした。
大丈夫、クリアできたはずと思っていたが、なにせ課題が曖昧で抽象的だったため、確信が持てなかったのである。
しかし国守の言をきいて、どうやら無事クリアできたようだと確信が持てた。
<其方の腕に巻きつく、其方の従卒、ほんに不憫であったからの。まだ幼いせいか、其方の命の灯がこの世から失せたとわかったろうに、あの地から離れようとはせなんだ。其方がこうして再び戻ってこなかったならば、ずっと待ち続けていたと思うと不憫での」
そうか。もし俺が還って来なかったら、朽ちるまであそこにいたのかもしれない。
<なーにー?>
ニーネはぽわぽわとつぶらな瞳をティティにむけてくる。
「なんでもないよ。ニーネはいつも可愛いなって思っただけ」
ニーネの頭を撫でてやる。
<わーい>
大事にしよう。寂しい思いを二度とさせぬように。
できるだけ?
「だからなぜそこで疑問形なのだ」
スヴァがダメ出しのため息をつく。
だって、ほら、そこはしかたないよね?
自分の意志じゃどうしようもない時もあるじゃない?
「そこは事前に考えなくてもよかろうよ」
了解です。
<そして、もう一つの魂も救えたようじゃの>
国守さまもスルースキルが発動しているようだ。
うん。話に集中しよう。
もう一つの魂。ライアンのことだろう。
これもまた俺が魔王、つまりはスヴァの魂を救いたいって思ってしまったばかりに、辛い役割をさせてしまい、そして七年間慟哭につかり、人間不信になってしまった迷える魂である。
<小さき者は純粋で、堕ちやすい。けれど、あの者は落ち方も純粋であった。なんとか救えてよかった>
そうだ。ライアンももしティティが還って来なかったら、貴重な10代を楽しむことなく、ストイックに自分を罰しながら過ごしてしまったに違いない。
本来のティティルナには申し訳ないが、今回の課題についてはありがたかった。
ジオルの行いで、若者が不幸になりかけてしまったのだから。
けど、いつでも戻ってきていいのだよ、ティティルナ。
ティティは自分の胸に手を当てる。
君はこの世界を楽しむ権利があるんだからね。
<ほんにそなたはしたたかなところもあれば、そのように馬鹿正直な面もある。おもしろいの。現世の人格が去ったのなら、そのまま大きな顔して再度巡ってきた人生をやりなおしてもいいだろうに>
「いえ、それはできません。現世のティティルナはすごいつらい思いをしてしまったから、逃げ出して当然です。あのバカ親が悪いんです。彼女は悪くないですから」
まだ親に保護されて当然の時期だ。それを捨てられたのだ。ひどい言葉を投げられて。
魂の奥底に逃げだしても仕方ないだろう。
<その試練に打ち勝てなかったのだから、そのまま消えるがよかろうよ>
「はは」
国守さまは厳しいところがあるからなあ。
これ以上議論しても無駄である。
<まあ、今いない者の話をしても無駄じゃ。其方たちの時間は有限である。話をすすめようかの>
ティティルナはいますよ。私の奥底に。
そう言いたいが、言っても無駄だろう。
ティティがそう思っていればよいだけである。
「お主の心なんて透けて見えるぞ」
スヴァ、いいから、わかってるから。
ごほん。さて、課題の話はこれでおわりらしい。
割とあっさりである。
クリアして当然だからかな。
それを問い正すことはできない。
だって相手は国守さまからだから。
ティティより圧倒的上位の存在なのだから。
従って当然の存在だもんなあ。
あ、そういえば、前世でも結構国守さまから色々言われたかも~。
一瞬遠い目をするティティである。
「なんだ。前世でもいいように使われていたのか」
スヴァ、それは言わないお約束でしょ。
国守さまはティティの心の中の葛藤なんて、全無視である。
私もそのくらい強力なスルースキル欲しいっ!
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