第370話 ティティ、弟と再会する
「ねえね!」
その懐かしい叫び声とともに、駆け寄って来たのは愛しい弟のノア。
「ねえね! ねえね~!」
抱き着き背に回された手がぎゅっとティティの服を掴む。
もう二度と放さないというように。
子供の高い体温。いつも以上に高いそれは、ノアの感情を如実に表しているようで。
それにつれてティティのそれも高まりを見せる。
「ノア、ただいま」
その言葉が正解かはわからない。
ただ、弟の元に還ってきたのだ。それ以外の言葉が見つからない。
「ん、ん!」
答えるノアは言葉にならないようだ。
本当に寂しい思いをさせてしまった。
親元から離され、更には姉とも離れ、見知らぬ人間もいない深い森に置き去りにされたのである。
そう考えると結構ひどいことをしたなと、今頃になって冷や汗をかく。
これは存分にノアを褒めなければならないだろう。
ノアの顔をそっと持ち上げる。
ぼろぼろと涙であふれるノアの目は溶けてしまいそうだ。
「ノア、ねえねが来るまで、よくがんばったね。えらいぞ」
「ん! ん!」
ぽろりとこぼれ落ちた涙がまるで真珠のように純粋だ。
あー。ほんとごめん。これからはずっと一緒にいてあげるからね!
できるだけ?
「なぜそこで疑問符をつけるのだ」
おい。スヴァ心を読むなよ。
だってさ、私が離れようとは思わないけど、どうなるかわからないだろ?
ティティは心中で口を尖らせる。
「先のことはわからぬのだから、そこは言い切ってしまえばよいのだ」
「スヴァったら、強気だな」。
私はそこまで自信家じゃないのだよ。
「自信などなくても言い切ればよい。そのほうが弟も安心するぞ」
流石元魔王さまである。
言い切れば、そうなるということか。
「くくくっ。お主たちのやりとりは面白いの。いつまで聞いていてもよいのじゃが。そうもいくまい。待つ者がおるのだからの」
スヴァとの不毛な会話にするりと入ってきたのは、穏やかなそして涼やかな声。
ティティははっとして、そちらに目を向ける。
そこにおわずは、天上人である国守さま、その御姿は白い牛。
「失礼致しました。再度お招きいただき、ありがとうございます。最初にご挨拶をしなくてはならなかったのに、大変失礼致しました」
自分にできる最大限の礼をする。
<よい。其方の弟、その小さき子は一人ここでよく励んでいた。其方を見て、我慢がきかなくなったのは仕方のないことじゃ。存分に褒めてやってよい>
「そう言っていただけると、ありがたいです」
そうか。国守さまがそう言ってもらえるほど、ノア頑張ったんだね。えらいえらい。
ノアの頭をぐりぐりと撫でてやる。
「えへへ」
そのティティの手に頭をこすりつけるノア。
そのしぐさが可愛すぎる!!
まだ目には涙が残っているが、背中をポンポンしてやるとようやっと泣き止んでくれたようである。
そのノアをスヴァがいる逆側にそっと移動させると、国守さまにもう一歩近づく。
まずはお礼だ、ノアを預かってもらったことにお礼。
「国守さま、ノアを預かっていただき、ありがとうございました」
「なに。必要なことであった。礼にはおよばぬ」
そう言ってもらえて大変ありがたいのであるが、そうもいくまい。
ティティは収納袋から国守やゴールデンシープたちの土産をだして、ずいっと前へと押し出した。
「これは私が選んだものです。気に入ってもらえたら、幸いです」
言葉は大事だけど、物も大事。美味しいものはもっと大事である。
「うむ。受け取っておこう。其方が選ぶものは愉快なものも多いからの。先程のサンドも美味であったぞ」
国守さま食べてくれたんだ。取るの早かったもんねえ。
お土産も気合を入れて選んだ。
それこそ、国中の教会からお供えものをもらっているから、驚くものなど滅多にないだろう。
だからお供えされなさそうなものをセレクトしてみた。
気に入ってもらえたらいいな。
ネクタールのような高いものはないけど、素朴な甘いものなどもそれなりにいい。
いつの間にかゴールデンシープが目の前に来ており、それらにちょんと触れる。
すると山のようにあったお土産が一瞬できえた。
そう。ゴールデンシープももちろん亜空間なのか不明だが、収納スキル持ちである。
国守さまの僕で、天に属するんだから、スキルではなくて御力になるのかな?
そのゴールデンシープ、お土産を受け取り、アンニュイな目が嬉しそうに見えるのは気のせいか。
そしていつの間にか。立派な角が生えてるよ。
早いよ! 角もらったの、ついこの間だよね!
そんなにちょいちょいと生え変わるものなの!?
「ゴールデンシープは御使いの僕。聖力が強いのだろうよ」
スヴァが答えをくれる。
「なるほど。角は聖力の塊なんだ」
おそらく聖素に満ち溢れているこの場にいれば、すぐに生えてくるのだろう。
納得である。
ん?納得なのか?
ま、角があったほうが貫禄あるよね。
弟との再会でしたv
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