第358話 ティティ、冒険者ギルドのマスターの腕前に感激する
ティティはにっこり笑って、席へと戻る。
あー楽しみ!
プライスレスなお城の食堂の食事もいいけど、お金が許すなら色々なところで食べてみたいよねっ。
「ティティちゃん、楽しそうだね」
「うん! だってここで食べるの初めてですからねっ。どんなものが出てくるかワクワクします」
「期待にそうものが出るといいですね」
「マスター自信ありげだったから、きっと大丈夫! それよりロルフは来てませんか?」
ライアンはロルフを知らないから、ブライトに尋ねる。
「まだですね」
「そうですか」
そりゃそうか。私がテーブル離れたちょっとの間に、来てくれるなんて都合のいい話ないか。
「今日はここでずっと彼を待つつもり?」
「ええ。自由にできるのも今日までのようですから、ぜひ彼に今日会いたいんです」
「わかりました」
「ブライトさん、忙しいようなら、ライもいますし、お仕事に戻られてもよいですよ」
「いえ! これも仕事です」
「そ、そうですか」
その気合が恐い。
もうスヴァに釘を刺されてるからね、お口にチャックしちゃったから、新しい商品アイデアは出さないよ。
そうだ。私が頼んだ字を覚える教材についての仕様書など、商業ギルドに行かなくて大丈夫か聞いておこう。
「ブライトさん、私が頼んだ、学習教材についての手配どうなってますか?」
「ああ、それはもう手配ずみですよ。仕様書も商業ギルドに提出してますし、職人にも物を作らせるように手配済みです」
「はやっ! はやいっすね!」
「ええ。ティティちゃんたちがここを離れる前に、早々に段取りをつけたかったものですから。詳しいことはルミエール様と話を詰めに詰めさせていただきました。ティティちゃんには事後承諾になってしまって、申し訳ない」
「いえ、私がすべて任せると言ったのですから、全然かまいませんよ」
そう、もう商業ギルドでのやり取りはちょっとうんざりしていたので、ブライトに丸投げしたのだ。
後で、ルミエール様に怒られたけど。そっか。2人できっちり話つめてくれたんだね。
ありがたや。ありがたや。
言葉尻が気になるけど、スルーだよっと。
<おい。そんなに2人を信用してよいのか?>
スヴァが心話で尋ねてくる。
<いいんだよ。2人ともある程度信用できるし、私もこの商品で儲けようとは思ってないからさ>
唯一の要望は予め伝えてあるしな。
<貧しい者がなるべく手が出やすい値段で売れ、か>
<そう。それさえ守ってもらえたら、後はたいした問題じゃないよ>
<そうか>
スヴァはそういうと伏せた。
「おまちどう!」
そこに景気のいい声とともに、待望の朝食が届く。
待ってました!
「ビアンコ様特製の、スモークチキン、フルーツソースがけサンドだ!」
「わあああ!」
なにそれなにそれ! とっても素敵な響き。
そして素敵で大きな肉サンドが、でんでんでんとテーブルにおかれた。
「ほらよ! おまえさんの分だ!」
マスターこと、ビアンコはスヴァの前にも肉サンドの皿を置く。
「じっくり味わえよ!」
そう言い残すと、さっさとカウンターへと下がっていってしまった。
朝は忙しいもんね。
フルーツソースについて聞きたかったけど、仕方ないねえ。
それにしても、立派なサンドイッチである。
食べ応えありそう。
朝からそんなに食べられるのかって?
大丈夫。私も一回に食べられる量が増えてきたから問題ないでしょ。
それに今日は長丁場になるかもだから、休み休み食べても問題ない。
という訳で。
「いただきまーす!」
両手でつかんでまずは一口かぶりついた。
途端、肉に絡まったあまずっぱいフルーツソースが口いっぱいに広がる。
なにこれ~。
肉の味が倍美味しい!
てか。肉もうまっ。
とり肉だと思うけど、スモークされてるからか味わいが深いっ!
「はあ! 幸せ!」
「それはよかったね」
ブライトはにこにこしながら、こちらを見る。
「だって、これおいしいよねっ! お城のご飯にも負けてないんじゃない?」
「確かに。そうかもしれないね」
「ライも美味しい?」
「はい」
もう、淡泊なんだから。もっとおおらかに美味しさを表現して。
ふ。これは要教育か。
にしても。
「ああ! このフルーツソース作り方教わりたい!」
それくらい、旨い!
とはいえ、作れるかはわからないが。
ティティは物欲しそうにカウンターにいるマスターを眺めたが、忙しそうだ。
おしゃべりする時間はなさそうである。
残念。
果実水を飲みながら、一口一口味わいながら、食べる。
その間も入り口をずっと見ているが、目的の人物は現れない。
ロルフやーい!はよこーい!
ティティ、実はこの朝食を食べる前に、少しつまみ食いをしてます。そうしないと倒れちゃうので。




