第356話 ティティ、ブライトを慰める
やれやれ、精神が摩耗しながらも、なんとか主な用事を済ませたティティは、その後、可愛い弟であるノアと国守さまへのお土産を買うべく精力的に街のお店を見て回った。
楽しみが後にあるわかってなかったら、乗り越えられなかったね!
そのくらいタフだったよ!
「あー!楽しかった!」
そして、その楽しみはアッと言う間に終わりを告げ、今城に戻る馬車の中である。
「やはり、いいね! 買い物は楽しいね!」
流石西のご領主さまのお膝元の街である。
一日二日では、すべてを網羅することはできない。
「明日冒険者ギルドでの用事が済んだ後も、買い物に行けるかなあ」
「ティティちゃん、明日も冒険者ギルドに行くの?」
ブライトが尋ねてくる。
「うん。今日、会えなかったからさ」
会いたい人物、それはロルフである。
やはりどうしてもここを旅立つ前に会っておきたかった。
それに頼みたいこともあるしね。
「わかりました。お付き合いしましょう」
ブライトがやれやれ仕方ないですねというように申し出てくる。
「いや、いいよ? 明日は別に商談ないし、1人でも大丈夫だよ?」
「だめです!」
正面に座るライアンも頷いている。
「なんでよ。私1人なら、下っ端の冒険者にしか見えないから、誰も目に留めないって」
「それでもだめです」
あ、否定しないのね、ブライトったら正直。
「貴女は視察団の一員であり、パズール様客人なのですからね。万が一があってはなりません」
「わかったよ」
ちぇ! 1人で街散策できると思ったのに。
ちらりとブリアに付き合ってもらおうと思ったが、きっとブリアも薬草研究しただろうから、我慢しておく。
「わかりました。明日はよろしくお願いします」
「はい、お願いされました」
明日うまく、ロルフに会えるといいけど。
ロルフの今住んでるとこ、わからないし、スラム街でたむろしてたところにはいないだろう。
いないよね? いない筈!
冒険者稼業に勤しんでるはずだ。
なので、明日は今日より更に早く、冒険者ギルドでロルフを待ち構える所存である。
「明日、ロルフに会えれば、それでこの街でやりたいことは大体おわりかなあ」
国守さまの課題もこなしたし、私の目的のライアンとも会えたしな
「そうですね。ティティちゃんの一番の目的はライアン様にお会いする事でしたからね」
ブライトがうんうんと頷く。
「そ。それが一番の目的だったのよ。けどさあ、再会した時は、ライがあまりにそっけなかったから愕然としたね」
思わず口を尖らせてしまう。まあね。ライアンも色々あったから、仕方ないっていや、仕方ないんだけどね。
「それは、誠に申し訳ありません」
ライアンが本当にすまなそうにこちらに頭を下げる。
「いいって。その一因は私にもあった訳だしさ。今はこうして普通に話してくれてるし」
それに、ライアンの心の重荷を少しは取り払えたのも、よかったしな。
まだ、話し方が、丁寧すぎるのは難点だけどな。
一度に全部直せないだろうしな。
「ところで、ライアン様、今日、商会、そして商業ギルドで色々なやり取りを見て来たと思いますが、どうですか?」
「どうとは?」
「これからティティちゃんは商品化できるアイデアを、無防備に無警戒にぼろぼろと落とすと思います。それらを拾い上げて、ティティちゃんに損のないように交渉できそうですか?」
なんかブライトの言葉の端々に悪意を感じるのは気のせいか。
「私がか?」
「はい。ティティはルミエール様たちとはずっと行動を一緒にするわけではないようです」
そうだね。おそらくアーリデアルトの森までだね。
「だとすると、最終的に大人で、同行する人はライアン様だけになるかと存じます。となると、駄々洩れたアイデアを商品として取り上げて、他人にその価値を横取りされないようにする役目はライアン様しかいないことになります。どうでしょうか?」
ライアンはしばし考えて、首を振る。
「貴殿のやり取りは理解できるが、私ができるとは思えない。私は元々騎士としてしか生きてこなかったからな。そういった他人とのやり取りができるとは思えない」
そうだよね。取引以前に他人と普通にしゃべる事さえ避けてたんだから。
「だがさっきも言ったように努力はする」
そうだよね。私と学んでいけばいいよっ。
「ブライトさん、そんな無理言わないであげてくださいよ。ライは貴族でそんなやり取り不要だったのですから」
「今は私はただのライです。これから学べばできなくはない」
また言ってる。わかったよ。でもなあ。
「性格的に無理かもな。人の裏を読むとか苦手そうだ」
あ、やべ。口がすべった。
「確かに得意ではありません」
ライアンが悔しそうに言う。もう負けず嫌いなんだから。
「いいよ。私、これから頻繁に商業ギルドを利用する気はないから。面倒くさいし。冒険者ギルドのほうでちまちま稼げればいいです。ライもいるし」
「私もただのライとして登録したからには、ティティさんを養えるくらいには稼ぎますよ」
「うん。無理しなくていいよ。2人で頑張ろうね。あ、私の弟もいるから、3人かな」
「はい」
ライアンと2人でほわほわと頷き合う。
「だめだ。この2人、商機をぼとぼとと逃してしまうのが目に見えるようだ」
ブライトが悲観したように呟く。
「ブライトさん、そんなに考え込まなくていいですって。気楽にいきましょうよ。楽しくね?」
しかし、ブライトの顔は一向に晴れない。
「もう! 大丈夫ですって。損しても気づかなければ、問題なし!」
「そうかもしれませんね」
うん。ライアンあとは意見があってよかった。
ライアンもお金に困ったことがないからか、この話のやり取りに、あまり関心がないようだ。
<お主は、お金は稼がねば、生きていけない平民なのに、商品を作る事にはあまり執着がないな。冒険者として稼ぐよりも、長く金が稼げるのに>
スヴァからやんわりとつっこみが入る。テルミニーネは腕に巻きついてお休み中だ。
<うーん。私はほどほどに食べていければいいし。がむしゃらに稼ぎたいとは思わないんだよねえ>
<元々お気楽な性格なのだな>
<そうかもー>
<褒めてないぞ>
楽しい事は好きだから、遊べる金は欲しいけど、大金持ちになりたいとは思わないんだよねえ。
「はあ。だめだ。この2人に任せられない」
ブライトがぼそりと呟いた。
「大丈夫大丈夫。あまり悩むと頭がはげるよ」
ま、私がいるのは長くとも後数日だから。
ブライト、目の前から私たちがいなくなれば、心配することもないよ。
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