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第355話 ティティ、スヴァに欲についてレクチャーされる

 商談についての心得を聞きたくないのに聞かされている間に、次の目的地である商業ギルドに馬車は到着した。

 冒険者ギルドと違ってこちらは馬車で乗り付けても、それほど目立たない。

 ブライト、私、ライアンの順で馬車を下りて、商業ギルドの中へと入る。

 前と同じように、豪華な応接室に通され、待つ事しばし。

 すぐに満面の笑みを浮かべたリュカが入って来た。

「ようこそおいでくださいました、ティティ様」

「ははあ。こんにちは」

 なぜにまた貴方なのか。

 いや、眼福ではあるよ? 私、綺麗なお兄さんも大好きだしね?

 でも、それ以上に面倒くささが前にでるっていうか。

 彼は私の専任になってしまったのか。

 えー。

 ティティはそこで一度首を振る。

 いやいや、贅沢は言うまい。

 今日はさっきの話し合いで、きっちり仕様書は出来上がっているし、カケラ合わせの新バージョンへの修正、ミニチュアハウスの登録をするだけだ。

 何せ、この仕様書、作るのもえらい苦労したのよ。

 ブライトとブライト兄がね。

 私とライアンは待ち疲れ、起こしたくらいにね。

 私がだらだらとこぼしてしまった呟きを、拾いまくった兄弟が、目を血走らせて仕上げていたので、疲れた、もう適当でいいんじゃね?とは言えなかった。

 とはいえ、その力作を手にしたブライトはやり切った感がすごい。

 やつれているのに、生き生きしてるのがまた何とも怖いね。

 さっきも馬車の中で商談とはと一席ぶってたくらいだからね。

 あ、そだ。学習玩具も登録するんだな。

 これも昨日のうちに話し合ったらしいから、ブライトフル回転だな。

 だから余計にやつれてるのかもな。

 ご苦労さまです。

 まあだから、目の保養になる貴方が担当でいいっちゃいいんだけどね。

 テーブルを挟んで向かい側のソファにリュカ。こちら側のソファには私が真ん中で上手(かみて)がライアン、下手(しもて)がブライトである。

 今日はルミエールいないのに、またも豪華なお部屋である。

 いいのか。たまたま空いてたのかな。

「そちらの方は初めてですね。わたくし、リュカと申します」

 リュカがライアンに挨拶する。

「私はライ。ただのライだ」

 ライアン、その挨拶変だよ。逆にただのライじゃないみたいに聞こえるから。

 ただのライってフレーズマジで気に入ったのね。

 リュカもにっこり笑ってスルーしてくれる。

 でも一瞬目が驚きに開いたから、ライアンの正体わかったのかも。

 それでもスルーしてくれるなんて、こちらの事情を察したくれたのかもね。

 なんせ、本人がただのライってアピールしてるからね。

「おや、そして今回また新しい従魔をお連れのようですね。なんとも可愛らしい」

「ありがとうございます。テルミニーネといいます」

 そ、今はテルミニーネは腕にいる。さきほどは寝ていたので、鞄の中に入れていたのだ。

 よかったんじゃないかな。きっとさっきの商談はニーネは退屈しただろうしね。

 スヴァはお馴染みの定位置であるティティの足元にいる。

 それにしても、わかってるね、リュカよ。そう、ニーネは可愛いんだよ!

<あるじさま~。ニーネかわい?>

<うんうん。可愛いよ>

<マクベス砦の門に迫る大きさに変化できるとバレなければ、可愛かろうよ。あの大きさなら、軽くブラックビックカウを一ひねりできるだろうから、けして、可愛いなどの感想はでまい>

<ブラックビックカウ? ブラックビックピックのほうが、ニーネすきかも~。おなかのもちがいいんだよ~。あれたべるとひとつきはもつかも~>

 可愛い声して言ってることは物騒だな、おい。

<でも~。ちいさくなってれば、おおきなの、たべなくてもだいじょうぶなの~>

<そうか。燃費を抑えられるとは、便利だな>

<うん~。かりにでてるじかんがながいとあるじさまとはなれてるじかんがながくなるからさみしいし~。だから、たまにたまにたべれはへいき~>

<そうか>

 従魔同士が恐い会話をしとる。

 他人には聞かせられないな。討伐対象になりかねない。

 ティティは咳ばらいをして、意識を外に向ける。

「ブライトさん、お願いします」

 ここでも交渉はブライトにお任せだ。

 私はブライトのやり取りを聞いて学ぶことになっている。

 きっちり聞いておきなさいねとブライトに言われているのだ。

「かしこまりました。リュカさん、今回は前に持って来た顔のカケラ合わせと一緒に持って来た風景画のカケラかけら合わせの進化版とミニチュアハウス、それと新しい学習玩具の登録をお願いします」

 そこからは、もうブライトの滔々とした説明が続いた。

 すげえ嬉しそうに話している。城にいるよりも生き生きしてるよ。

 きっと彼の頭の中は、金貨がいっぱいに違いない。

 金は人間を元気にする力があるのは間違いないからなあ。

 特に商人の息子である彼ならなおさらだろう。

<欲は活動の源の一因だからな>

 スヴァが前足で顔を洗いながら、心話で呟く。

<わあ。じゃあ、ブライトからも魔素が出てるの?>

<いや。過ぎた欲ではないから、出てはいないな>

 欲が全部魔素を出す訳ではないらしい。

 そこら辺の線引きがわからないが、とりあえずブライトは健全らしい。

 良きかな良きかな。

 そんなことを考えているうちに、大人2人の話し合いは済んだらしい。

「それでは、登録完了の知らせは、スローター商会に行えばよろしいのですね?」

「はい。ティティは近日この街を離れますので」

「そうなのですか?」

 美人職員リュカが、こちらに目を向けて来る。

「はい。私は本来冒険者が主な仕事ですから。ここでの目的は果たしたので」

「さようですか。とても残念ですね。ティティ様なら、これからいくらでも商品を生み出してくれそうでございますのに。それに関われないのは非常に残念です」

 やめて、獲物をみるように目を細めるのは。いくら美人さんからの眼差しでもその目はやめて。

 今日はもうその目つきはお腹いっぱいですから。

 そしてブライト、何大きく頷いてるのかな。

 やめて、その誠に同感ですっていう頷きは。

「大変名残惜しいですが、またこの街にお越しいただいた際には、ぜひともわたくしにお声がけくださいね」

 美人さんがやけに迫力のある顔で、にっこりと笑う。

「はは。そうですね。こちらに来た時には、寄らせてもらえたらとは思います」

 それって、商業ギルドに寄ってねって意味だよね? なんか違う意味合いにとれるのは気のせいだよね?

 うーんやっぱり、商業ギルドは苦手だね。

 さっさと退散しよう。


ティティ、色々な人に色々教えてもらって、幸せですね(笑)

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