第354話 ティティ、学びを求められる
「ふう。ブライト兄、疲れるわあ」
馬車の背もたれに身体を預けてぐったりする。
一区切りついて、ミニチュアハウスについても色々話あって、今やっと終わったところである。
あの商品に対する情熱を真正面に受け止めるのは苦手だ。
誰か代わってくれないものだろうか。
一息ついてふっと視線を上げると、ライアンの隣に座るブライトが目に入った。
「あ、ごめんなさい」
いかん。彼の兄をディスってしまった。
「いえ、いいんですよ。あの兄のしつこさは私も辟易しますからね」
うん。他人事みたいに言うけど、君もだからね、ブライトよ。
「あ、そういえば、昨晩思いついた、もう一つの学習玩具について言うの忘れた」
もう、早く立ち去りたくて、すっかり忘れていたよ。
「ふふ。いいのですよ。あれは兄は一切かかわりないこと。私がすべて預かって処理しますから。そのつもりでルミエールさまとも話し合い済みです」
「そうなのですか」
ブライトはしっかり覚えていて、わざと言わなかったらしい。
「私がもしそれについて話しを始めたら、どうするつもりだったのですか?」
「それならそれで、私がすべて取り仕切る旨を兄に告げて、終わりですね」
あ、これは兄が悔しがる姿を見たかったな。
どうしたスローター兄弟よ。なぜそんなに競い合うのだ。
理由が少し気になったが、少しなので、スルーしておく。
「わかりました。そうならいいんです。私としても話し合いは苦手ですから。今回のお兄さんとの話し合いも私抜きで進めてくれてもよかったくらいです」
「いいえ!それはだめですよ」
えー。なんでよ。
「ティティちゃんはこれから旅を続けていくうちに、同じような商談をする機会が多々あるでしょう」
「いえいえ。そんな、ないですよう。今回たまたまですって」
ないっ! 全力で回避するぞっ!
「東の領地で、商業ギルトと今回のようなやりとりはなかったのですか?」
「うっ」
「そのすっぱいものを食べたような顔をみればわかります。私の言が正しいということを」
やめて。そんな予言しないで。
「今はいいです。私も、ルミエール様もいらっしゃいますから。ただこれからはティティちゃん自身が対処していかなくてはならないのですよ。少しでもここでやり方を学んでもらわないと。いいカモになってしまいます。なので、今日あえて商談の場を設けました」
私は別にカモになってもいいけど。
カモになったと気づかなければ、怒りもわかないし。
そう言ったら、怒られそうだ。黙って頷いておく。
「本当にわかってるんですか?」
「うん。大丈夫。大丈夫。学んだよ。ありがと」
心配してくれてるんだよな。ありがとな。それを活かせるかは別問題だけどな。
「まったくしっかりしてくださいね。私ならともかく、他の商人に、儲けさせるなんてごめんですからね」
そっちかよっ。感謝して損した!
ブライトはそこで隣に座るライアンに目を向ける。
「ライアン様、中身はともかく見た目はティティちゃんは子供です。ティティちゃんが騙されないように、お願いしますね」
「わかった。誠意努力する」
しっかり頷いたライアンに対して、ブライトは心配げな表情だ。
まあね。商談なんてしたことない、ここに来る前は箱入り息子だったろうし、ここに来てからも砦に籠ってボッチしてたからなあ。
私よりころっと騙されそうだ。
私がしっかりしないとだめかもね。
<我がしっかりせねばな>
うーん、なんかみんなどんぐりの背比べっぽいかも。
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