第353話 ティティ、スローター商会の手からなんとか逃れる
「それにしても、平民の識字率ですか。ティティ様は広い視野をお持ちですね」
ブライト兄が感心したように、顎を撫でている。
「いえ、私自身、読み書きできない時は、本当困りましたから」
「そうですね。読み書きできるだけで、格段に違いますからね。更に計算ができれば、色々な仕事に付けるでしょうね」
「計算か」
うむと、ティティは顎に手を当てる。
「それならば」
<待て! ティティルナ! 口を閉じろ!>
足元にいたスヴァから突然の鋭い忠告が飛ぶ。
反射的にティティはぱくんと口を閉じた。
<な、なんだよ? なんか私、へましたか?>
<それ以上口を開くと、お主、この街を出られなくなるぞ>
<ふえ?>
「なんでしょう? ティティ様、また何か思いつかれましたか?」
「ティティちゃん? 何? 何でも言っていいよ?」
ふおおお! スローター兄弟の目が恐い。食われそうな目だ。
<これ以上言ったら、お主、この商会に取り込まれるぞ。人間は金に目がないからな。金の為なら、平民の子供の自由なんて簡単に奪って平然とやってのけるぞ>
こわっ。何それ!? 本当?
口! お口を閉じなきゃ!
「いえ! 別に何も! 全然! 思いついてないですよ!」
「本当ですか?」
ブライト兄、何、その目。やめて。
私はもう話さないよ! ここに留まる訳にはいかないからね。
「やはり、ティティ様にはこの街にいてほしいですね。どうです? うちで働きませんか?」
「ありがたいお話ですが、私は冒険者として自由に旅をしたいので」
「そんなこと言わず。是非に!」
ずずずずい、ずいずいとブライト兄がせめてくる。
「うちの商会に入ってもらえるなら、悪いようにはしませんよ」
「いえ、本当に大丈夫ですから」
「無理強いはしたくはないです。ですが」
うわあ。本気で怖い。
「ダメですよ。兄さん。ティティちゃんには保護者が色々ついてますから」
「保護者、ですか?」
「ええ。ティティちゃんには、東の辺境伯に非常に気に入られていますし、何よりここにいるお方に大切にされておりますから」
ブライトはそう言いつつ、ティティの隣に座っていたライアンを示す。
「こちらの方ですか?」
「ええ。ライアン様です。ライアン様、フードをお取りいただいてもよろしいですか?」
その言葉にライアンがフードを取る。
豪奢な金髪に、冴え冴えとしたブルーアイが、真っすぐにブライト兄を見つめる。
「これは、救国の英雄、ライアン=マクドーニ様!」
すげっ! 一発で言い当てたよ! 商人としては常識なのかな?
「そうです。このお方がティティちゃんを大変気に入られて、これからの旅にも同行するようになってるんだよ」
「それは」
一瞬言葉に詰まるブライト兄。
そこで、はあと息を吐きだすと、首を振った。
「残念、とても残念ですが、諦めるほかありませんね」
「ですね」
なぜ、ブライトも首を振る。
「兄さん、気持ちを切り替えて、話を進めましょう」
うん。そうして。早めに次に行きたいのだよ。
次は商業ギルドかあ。
またくせのあるあの人が担当になったら、いやだなあ。
休みだといいけど。
国守さま! お願い! 私の願いを聞いて欲しいっ!
計算についての玩具バージョン、きっとスローター商会がカケラ合わせで開発していくでしょう(笑)




