第343話 ティティ、うっかりして皆を驚かせる
「ティティちゃん! おまたせ!」
満面の笑みを浮かべつつ、ブライトは半時ほど経ってから、ティティの部屋に迎えに来た。
うん、きっと段取りが上手く行ったんだね。
詳しくは聞かないよ。
気疲れしそうだしね。
ブライトも全然気にしないのか、足取り軽く、貴人たちが使う食堂へとティティたちを導く。
食堂に入ると、すでにルミエール、ヒース、ライアンは席に着いていた。
ご領主のヘクトはまだらしい。
ご領主さまは忙しいもんね。
ブライトに促され、ティティは扉の手前側、上座に座るヒースの隣に座る。
ブリアはそのティティの隣だ。
テーブルを挟んで、向かい側の上座側からライアン、ルミエールと座っている。
「ルミエール様、遅くなり申し訳ありません」
偉い人より遅く入ってきちゃったからね、一応礼儀として詫びを入れて置く。
「問題有りませんよ。私も今しがた来たところですからね」
そう答える久しぶりに会うルミエールは少しやつれているような。目の下にもくまが薄っすらある。
けれど、俺充実してるぞーって雰囲気が出てるから、問題ないんだろうな。
うん。研究、楽しんだね。よかったよ。
そんなことを考えている間に、ヘクタ様が扉から入って来た。
「待たせてすまない」
皆は一斉に席を立つ。
「ああ、構わないから座って欲しい」
その言葉で、皆が座る。
ブライトはヘクタの後ろに立つ。
「さて、まずは食事をしてからにしましょうか。それからゆっくりと話し合いを致しましょう」
うえ~。最初にさっさと案件を片付けてから食事のほうがいいけどなっ。
気になってゆっくりご飯食べらんないじゃん。
<いや、いざ食事が始まったら、問題ないだろうよ>
ティティの足元に控えるスヴァが心話で呟く。
ブライトは早々に騎士食堂で夕飯済ませて来たんだろう。
そう言ってたし。羨ましい限り。
私もその方がよかったよ。領主さまと夕食取るより、平民も混じる騎士食堂か魔法士食堂でわいわいと食べたほうが絶対楽しいしっ。
これも目の前に座るライアンのせいである。
君はいいよ。生粋のお貴族さまなんだから、ちっとも負担じゃないだろうけど、こちとら生粋の平民なんだぞ。全く、大人なんだから、私抜きでヘクタと食事位しなさいと言いたいっ。
恨みがましく見やると、小首を傾げて、なにって顔をしている。
こちらが何に怒っているのか、わからないようである。
くっ。可愛いじゃないか。仕方ない、今日は許す。が、おいおい言い聞かせないとなっ。
<あるじさま~。ニーネ、おなかすいてきた~>
先程のヘクタの言葉で、次々と食事が運ばれてきているのであるが、その匂いに反応したのか、首に巻きついていたテルミニーネがそう切なげに訴えて来た。
そっか。再会して以来、忙しくて、テルミニーネに餌をあげてなかった。
ニーネは毎日ご飯を食べる訳ではない。
以前は1週間に1回くらいだった。
今はどうなのだろう。身体大きいし、もっと食べるのかな。
<ごめんね。ニーネのご飯、用意してなくて>
どうするか。私は全然平気だけど、食事前にテルミニーネの餌の話をするのは気が引ける。
<んーん。いいよ~。ニーネじぶんでごはんみつけるから~。このおしろにおいしそうな匂いがするから~。すこしごはんたべてきてもいい~?>
ほう。それは助かる。
<ん。いいけど、私、ついて行かなくて大丈夫?>
<うん。たべたら、あるじさまのにおいたどって~、おへやにもどってくるよ~>
<そっか。なら、ちょっと待ってね>
いきなり野放しにするのはまずいよな。許可取らないと。
ティティはヘクタに小さく手を挙げる。
「あの~。すみません。ニーネがお腹空いたみたいで。お城の中を散歩させてもよいですか?」
直接的な表現はね、避けるよ、今まさに食事前だしねっ。
「そうですか。そちらが貴女の従魔のテルミニーネなのですね」
ヘクタがティティの首にいるテルミニーネをじっと見つめる。
あっ、そっか。このビジネスディナーでテルミニーネを見せるのも一つの案件になっていたっけ。
「はい。テルミニーネと言います。女の子です」
テルミニーネの首をヘクタのほうに向ける。
<ニーネもごあいさつして>
<ニーネだよ~>
もちろんニーネの心話の声は聞こえない。
けども。テルミニーネのぺこりと頭を下げた、可愛いボディーランゲージは伝わったに違いない。
どうよっ。うちの子、いいっしょ。
しばしそんなテルミニーネをヘクタは見つめ、頷いた。
「魔力制御の首輪もつけているし、問題なさそうですね。よろしいでしょう」
「ありがとうございます。ニーネいいって!」
<やった~。あるじさま~>
テルミニーネが、しっぽをぺこっと揺らす。
<あるじさま~。それでね、おねがいがあるの~>
<何かな?>
<うん。ニー、すこしだけおおきくなりたいから、いったんこのくびわをゆるめてほしいの~。このからだのおおきさだと、ちいさいのしかたべられないから~。このままおおきくなったら、くびわこわしちゃう~>
なるほど。やっぱ、前よりいっぱい食べるんだな。そうだな。身体が大きいほうが効率いいもんなっ。
「わかった、首上げて」
ティティはテルミニーネの願いを聞いて、首輪をカシャリと解除する。
「「「「「なっ!」」」」」
瞬間、ティティ以外の者が目を見開いた。
ティティはそれに気づかず、テルミニーネとやり取りを続ける。
「いいぞー」
そのティティの言葉で、テルミニーネが一瞬光って大きくなる。大体長身の成人男性ぐらいの身長ぐらいだろうか。それに併せて胴回りも太くなる。
<んん~。これくらいでいいかな~>
「よし。じゃ、首輪はめるよ」
<はーい>
うん。よい返事です。そして魔力制御の魔道具をはめなおす。
すると、首輪はテルミニーネの首の太さに合わせて、ぴっちりとはまる。
「ごめんね。窮屈な思いさせて」
<いーのー。あるじさまといられるなら、だいじょうぶ~>
この可愛い奴め。
でれりと緩む顔をなんとか引き締めると。床にテルミニーネを放した。
「ほら、行っておいで。城のみなさんに迷惑かけないでね」
<わかったあ。いってくる~>
「ここにいなかったら、私の部屋に帰って来てね」
<うん。わかった~。においをたどっていくから~>
テルミニーネは尻尾をふりふり出て行った。
そこでティティの後ろから多数の息が漏れた。
「なん?」
疑問に思い、首を傾げる。
「魔道具を外す時には、許可を求めてからするように」
ヘクタが皆の心境を代表するように告げた。
「あ、すいません!」
そっか。私はテルミニーネがむやみに人間を襲わないのを知ってるけど、みんなは知らないもんな。しくった。
「いや。次からでよい。今の出来事で、其方の従魔が、本当に大きさを自在に変えられるのと、其方の言うことをちゃんと聞いて守ると言うがわかりましたからね」
「は、はい。すいません。驚かせて」
「本当に、従魔といい、ライアン殿のことといい、其方には人を引き付ける何かがあるのかもしれないですねえ」
ヘクタがため息を吐き出すように呟く。
「いえ、そんな大層なものではないです!」
それに、私、ライアンを従わせてないからっ。
そして、ルミエール、ヒース、ブリア、そこで大きく頷くのやめて。
「まったく、目が離せないですよ」
ブライトまで、そんなこと言うな。
みんな誤解だよ。私は普通の女の子だからっ。
<普通ではないな>
くっ。スヴァまで。裏切者!!
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