第340話 ティティ、ささやかに願う
「ねえ。ティティちょっと聞いていいかしら?」
城に向かう途中の馬車の中、向かい側に座っていたブリアが問いかける。
「なんでしょうか?」
ティティは背もたれから身体を起こす。
「こういう思いをするってわかっていて、どうして視察場所に孤児院を選んだの?」
おっ! そこ突っ込む? 突っ込んじゃう?
「あーそれはですね」
ブリアはティティが前世の記憶があることを知る数少ない1人だ。
正直に話してもいいだろう。
「前世のジオルも孤児だったんですよ。それで孤児院で一時お世話になってた時期がありまして」
ぽりぽりと鼻をかく。
「だからか、その街にある孤児院が気になるんですよね。一時でも癒しになれる何かができればいいなって思ったりして」
そして理由は何でもいい。お偉いさんに少しでも孤児院の現状を知ってもらって、改善されればいいなっていう打算も働いている。
だってほら、私一人でできるのは、ささやかな、差し入れくらいだからね。
ゴルデバでは孤児院に寄る心の余裕はなかったけどな。
そうだ。できれば、自分がお世話になってた孤児院もいつか行ってみたいぞ。
すぐでなくていい。
尋ねて行って、無くなってたらショックだし、あっても院長がいなかったら、やっぱりショックを受けそうで。
まだどちらに対する心構えが出来ていない。
もう少し会う準備ができたら、行けたらいいなって思う。
<ぐずぐずしてたら、どちらの可能性も大きくなるのではないか?>
スヴァが鋭く突っ込む。
<わかってるよ! わかってるけど! ジオルとして会いに行けないだろ?>
それが何よりつらい。
今はティティな訳で。
どうしてもよそ行きの顔でしか顔を合わせられないのが、ちょっと切ない。
<そうか。ならば、お主のタイミングで行くのがよかろうよ>
<うん>
ちょっとしんみりしちゃった。
「ティティ、ごめんなさい」
スヴァと会話していた間の沈黙を、辛いことを思い出させてしまったのだと、ブリアが沈痛な面持ちでこちらを見つめていた。
わあああ。ブリアが落ち込んじゃったよ。
「違うんです!」
ティティが慌てて弁解する。
「私って、前世も今も、肉親の縁が薄いなあって、今気が付いたなって。ははは」
「ティティ」
ブリアが余計に暗い顔をする。
<フォローになっていないではないか>
<あるじ~。ニーネがいるからさみしくないよ~>
テルミニーネがちょろりと頬をなめる。
私が慰められてどうする。
テルミニーネも突然魔王領の中心で放り出したのに、全然怒ってないんだよな。
怒ってもいいのに。
それに私の事を忘れたっていいのに。
<ニーネは~、あるじさまがだいすきだから~。またあえただけでいいの~>
くそぅ、可愛いこと言いやがって。
「ありがとな」
ニーネの頭を撫でつつ、呟いた。
<おい、自分だけ浮上するな。向かいに座る者を何とかしろ>
「あっ」
見ると、ブリアはとっぷりと落ち込んでいた。
「ブリアさ~ん、本当気にしないでいいんですってばあ」
その後、城に着くまで、ブリアの気分を浮上させるのに、苦労するティティだった。
なんだよ。
なんか、今日私大変じゃね?
ちょっとしんみり。
気分を変えて。
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