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第337話 ティティ、おチビたちと玩具で遊ぶ

「ティー!」

 院長室から出ると、まっさきに駆け寄って来たのは、チーだ。

 しゃがみこんだティティの胸にぎゅっと抱き着く。

「おー。覚えていてくれたのか」

 こくりと頷いたチーが、頭をぐりぐり押し付けて来る。

 可愛い奴め。

「ルー、エリカ、チャック、ジム、シリ、トム、セリア! みんな元気だったか? 約束通りまた遊びに来たよ」

 にこっと笑うと、子供たちがぱっと顔を明るくして、ティティに駆け寄ってきた。

「本当に来てくれたんだね!」

「僕、待ってた! ずっと待ってたよ!」

「早く遊ぼう!」

 それぞれすっごく喜んで、ティティの手を引っ張って歩く。

 わかるなあ。

 また遊びに来るって言って、来る人少ないからなあ。

 来られないなら、来られないと言ってやらないと、この子たちはずっと待ってしまう。

 人恋しさは普通の家庭の子供より数倍高いのだから。

 切なさを飲み込んで、ティティは少し大きな声を出した。

「今日はねえ。この前遊んだ紙のおもちゃあったでしょう? それをずっと遊べるように新しく作ってきたからね! それで遊ぼう」

「本当!?」

 子供たちが、きゃあっと可愛い悲鳴を上げる。

「新作もあるぞ!」

 ティティはチーを抱き上げると、おチビ部屋へと向かう。

「さあ。誰からやる?」

 おチビ部屋に着くと、チーをおろして、収納袋からおもちゃを取り出す。

 まずは院長先生のお顔のおもちゃだ。

「いっぱい! いっぱいある!」

 子供たちの目がそれらに釘付けである。

「前のは遊びすぎてやぶれちゃったのよ」

 エリカがしょんぼりしながら、告げる。

「しょうなの。それでチーが大泣きしちゃって、大変だったの」

 セリアがその時の事を思い出したのか、顔を顰めている。

 そのチーと言えば、ティティの脇で、新たなおもちゃに目を輝かせて、話なんて聞いちゃいない。

 ま、おチビなんてそんなもんだね。

「そっか。今回のは頑丈に作ってあるから大丈夫だぞ。それよりみんな遊び方は覚えてるかな?」

「えっと。目隠し! 目隠しして遊ぶの!」

「マリねえちゃ! 目隠し! 目隠し、欲しいの!」

「はいはい」

 今日もおチビたちのお守り係のおさげのマリが目を覆う布を渡している。

「マリさんも、お元気でしたか?」

「はい。変わりないですね」

 うん。安定のクールな女の子である。

 そうしている間におチビたちは遊び始めた。

 それをしばらくティティは眺める。

 うん。いいねっ。おチビたち可愛い。

 そしてティティのお供のスヴァとブリアは、部屋の入口付近にひっそりと気配を消して佇んでいる。

 そこが君たちの定位置なのね。

 わかりました。

 おチビたちの相手は私がするぜっ。

「はーい! 注目!」

 少し大きな声を出して、ティティはおチビたちの注意を引く。

「じゃーん! さっき言った新作のおもちゃだよー」

 そう言って、収納袋から新作の絵のカケラ合わせを取り出す。

「なになに?」

「どうやって遊ぶの?」

 トム、ジャック、シリ、ジムが身を乗り出してくる。

「これはねえ、こうしてばらして」

 ティティは風景画のパーツを薄いケースから出す。

「あー! ぐちゃぐちゃになっちゃったよ」

 セリアが眉をしょんぼりさげる。

 チーは、目に涙を浮かべている。

「いや、これでいいんだよ」

 ティティはパーツの1つを取り上げると、それを元のボードの中に入れる。

「元の形になるようにこれらのかけらを当てはめていくんだよ」

 最初は、角から責めて行く。

 そうしないと、完成がなかなか難しいからね。

 入っていた箱には、完成された絵が薄く下絵として描いてある。

 それをヒントに絵を完成させるのだ。

「おチビたちには、難しいかな?」

 少し挑発するようにそう言うと、おチビたちがむっとしたように目を三角にする。

「できるよ!」

「できるも!」

「チーも!」

 いや、チーには難しいかな。

 そっか、パーツの細かさで難易度を設定するってのもありか。

 後でブリアやルミエールに相談かな。

「これは面白そうですね」

 マリがおチビたちの後ろから興味深かそうに眺めている。

「マリさんもやってみて、ぜひ感想聞かせてください」

 ティティがにっこり笑ってそういうと、少し頬を染めて、つんとした。

「わかりました。この子たちがうまく遊べるか、私が試してみないとですからね」

 ウワー。ツンデレだ!

 ここにツンデレ娘がいる!

 スローター商会での疲れが一気に癒されていく。

 やっぱ、おチビたちと遊ぶのは楽しいなあ。

 それからしばらくの間、おチビたちは飽きることなく、ティティが持ってきた玩具で遊んだ。

 ただ、楽しい時間はアッという間で。

 夕食に出す肉の焼く匂いが漂い始める。

 ブリアがそっとティティに声をかける。

「ティティ、そろそろ時間よ」

「ああ、うん。わかりました」

 おチビたちはそれを敏感に察知。

 ティティが帰ってしまうことを。

 おチビたちの目に、じわりと涙が浮かぶ。

「帰っちゃうの?」

 セリアがティティを見上げる。

「うん。ごめんね」

 嘘は付けない。

「やあああああ!」

 チーがおもちゃを放り出して、ティティの胸に飛び込んで来る。

「やだやだ。もっと遊んで?」

「もう少し! もう少しいて!」

「お泊りしてって!」

「ずっといてよう」

 シリ、トム、ジム、チャックも縋りついて来る。

「あー」

 この時、この瞬間が一番つらい。

 でも、ティティよりもおチビたちのほうが何倍も辛く感じている筈。

 ジオルのガキの時もそうだった。

 もう一生会えないと思ってしまうほどに辛い。

「ほら、みんな! 涙を拭いて! 泣いてる暇はないよ! 私がみんなの為にいっぱいおいしい肉を持ってきたからね! 夕食は今日は肉三昧だよ! お腹いっぱい食べなきゃだよ!」

 だから別れの辛さを、肉で気を逸らす。

 そうして皆がお肉を食べている間に、そっと帰るのだ。

 だって、また来るって今日は言えないから。

 ごめんね。

「ご飯だよ~」

 良いタイミングで夕食を告げる声が響いた。

楽しい時間はあっという間に過ぎますよね。

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