第32話 ハンクはいいおっさんである
「ああ。では気を付けてな」
「はい、ありがとうございました!」
ティティはぺこりと頭を下げて、門の外へと向かった。
なんか強面だったがいい兄ちゃんだったな。ふふ。この街に来てから俺はついてるぜ。
「さてと、ハンクのおっさんはどこだ?」
<あそこだ>
スヴァがいち早く見つけて、走り出した。
「あ、待てよ!」
それに着いて行くと、その先にハンクがいた。
朝の混雑は一段落したのか、少し暇そうにしている。
「ハンクさん!」
「おっ!」
ティティの声に振り返って、すぐに笑顔を浮かべてくれた。
「お! 嬢ちゃんか!」
「はい! ティティですよ!」
「ああ、わりい! ティティか。今日はどうした?」
「今日はご報告です! 無事に冒険者になれました! そして先程、通行料も支払ってきました!」
「おおっ! ちゃんと冒険者になれたか! 買い取りもうまくいったんだな」
「はい。冒険者ギルドの職員さんも親切にしてくれました」
「そうか。よかったな」
そこで、頭をくしゃりと撫でてくれた。
瞬間、ティティの胸がずきりと痛む。大きな手。とても優しい手だ。
ああ、この人みたいな父親が欲しかった。
そうであれば、今自分はここにはいないはずだ。
「ティティ? どうした?」
「いえ、なんでもないです」
一瞬過った考えを振り切ると、ティティはリュックから酒壺を取り出して、ハンクに差し出した。
「これ!」
「おお?!」
勢いよく差し出したそれを、ハンクは反射的に受け取った。
「それ、親切にしてくれたお礼です! お酒なんですけど、飲めますか?」
「おお、酒は大好きだ!って、お礼なんて、子供がんなことしなくていいんだよ!」
「でも、ハンクさんに色々お話も聞いてもらって、仮登録証も作ってもらったし」
「それは仕事で!」
「でも、親身になってくれたから。私の気持ち受け取ってもらいたいです。だめですか?」
それ! うるうる攻撃だ!
「うっ!」
案の定、ハンクがひるんだ。ティティの平凡な顔でも、子供のウルウル目は有効だ。
よし、もう一息だ。
「本当、ハンクさんには、感謝してるんです」
うるうる。うるうる。
「わかった! 今回だけだ!」
勝った。
ティティは改めて、深々と頭を下げた。
「ハンクさん、本当にありがとうございました。この街へ入れたから、生きて行けます」
冗談じゃなくて本当そうなんだよ。もし門前払いされてたら、やばかった。ジオルの身体だったらまだしも、こんなチビでガリのティティの身体じゃ、のたれ死んでたかもしれないから。
「ああ、もういいよ! そんなに頭をさげなくて! 本当いい子だな!」
照れ隠しなのか、ティティの頭をぐりぐりと撫でまわす。
「ありがたく、飲ませてもらうよ」
そう、お礼を返してくれるハンクの声はとてもやさしかった。
「それにしても見違えたな。ちゃんと今日は冒険者に見えるぞ」
「えへへ。そうですよ! 一人前の冒険者です!」
前はペラペラの服一枚だったからな。今日はしっかりとした服や革の靴を履いてるし、リュックも背負ってるからな。
「これから、採集か?」
おっ! わかってるね。そう、Fランクの仕事なんて、採集や町の雑用などがほとんどだ。
「そうです! これから森に行ってきます。頑張って依頼されたものを探してきます!」
「そうか。まあ、無理せずな。それと暗くなる前に早く帰ってこいよ」
「はい。わかりました」
「それと、また何か困ったことがあれば、相談しろ」
「ありがとうございます!」
本当いいおっさんだな。
「では、行ってきます!」
「おう! 気をつけてな」
ああ、本当、こんな父親が欲しかったよ。
ティティはハンクに手を振りつつ、駆け出した。
少しの胸の痛みを感じながら。
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