第319話 ティティ、前世の死後のことを聞く
「じゃ、魔王城でのことは一旦区切りな」
ティティは、暗い雰囲気を吹き飛ばすように柏手を打つ。
「そんで? あの後どうなった?」
あの後とは、俺が死んだ後の事だ。
「はい。魔王と貴方が消滅すると、魔王城を覆っていた視認できるほどの濃い魔素はなくなり、魔族も姿を消しました」
<魔王が呪素と魔素を大幅に削減したとはいえ、新たな魔王が誕生するまで、魔族は世界の浄化に必要不可欠だからな。本能により、退治される前に、退避したんだろう>
そっか。魔王を退治したからと言って、世界に呪素や魔素が全部なくなる訳ではないからな。
浄化装置は継続して必要って訳か。
なんか切ない。
<いいから、話を続けよ>
もう。スヴァはドライなんだからな。
しかしそっか。魔王の肉体と魔王の魂の半分、俺の肉体とそれに俺の魂の半分は、大いなる深源たる河から伸びた大きな手に掴まり、河に取り込まれたが、スヴァの魂の半分と俺の魂の半分はその手から逃れ、輪廻の輪に入れたんだよな。けど、生きている人間がそんなことわかる訳ない。
俺らが消滅したように見えた訳だな。
なるほどなあ。
「生き残った者は皆王都に帰りました。そして私は討伐隊の名誉隊長として魔王を討つまでの経過、自分の命を賭して戦って亡くなった者たち、特にジオルさん、あなたの働きを国王に報告しました。どうかあなたを英雄として名を残して欲しいと願いました」
「ええっ。なんで!」
やだよ!
英雄なんて! こっぱずかしい!
それに俺、魔王逃しちゃってるし!
「なんでって当然でしょう! あなたがいなければ、魔王を倒すことができなかったのですから! なのに、国王は!」
ライアンはぎりっと唇を噛み締めた。
「私を英雄に担ぎ上げたのです。死した平民よりも生きて帰って来た貴族の私のほうが英雄に相応しいと」
<うむ見目も、身分も、こやつのほうが政治的に活用しやすい。そなたが生きているならまだしも死んでしまっているからな。どうせなら、生きた英雄を担ぎ上げたかったのだろう。国としても勇者不在で魔王を打ち取った功を、最大限に国民の求心力とて使いたかったのだろう>
<そんなものか?>
私にはそこら辺わからんな。
<そんなものだ。それに最後にとどめを刺したのは、こやつならば、なまじ間違ってはおるまい>
そらそうだな。うん。
「僕は、ジオルさんの功績を世に知らしめてほしいと強く願いました。けれど、死んだ平民など何の価値もないと言われました」
<そうだろうな。だが、それをこやつに直接言うか。馬鹿な王だな。こやつの性格をまるでわかっておらんかったようだ>
スヴァが足元で首を振っている。
「僕が拒否しているのにかからわず、親も王も僕を英雄に担ぎ上げました」
<王は11歳の少年の戯言など、聞き入れる必要も感じなかったのだろうよ>
「私は、僕は、国王に、貴族の在り方に、幻滅した」
ライアンは憎しみをこめた目で空を睨んだ。
こいつは、真っすぐな奴だったからなあ。
あ、今もだけど。
こいつがつんつんぼっちになった訳が、段々見えてきたな。
ティティの一人称が俺になったり、私になったり、ライアンの一人称が僕になったり、私になったり、2人とも過去に引っ張られたり、今に戻ったり、冷静でいるようでいられないようです。




