第317話 ティティ、ライアンを懐かしむ。
「ようこそ、私の部屋に。って言っても仮の自室だけどな」
ティティが先に部屋に入って、ライアンを招き入れる。
本来、男性が婦女子と2人きりで話すとなると、メイドの一人も部屋に置くのが普通であるが、こんな幼女、それも元男だ、問題ないだろう。
それにこれから話すことは誰にも聞かれたくない。
「ソファにでも座ってくれ、あ、くださいか?」
ジオルの時はため口だったが、ライアンは貴族、況して英雄と呼ばれる人間だもんな、敬語を使ったほうがいいのか?
首を傾げつつ、ソファをすすめるティティに、ライアンは首を振った。
「敬語は不要です。前のように話してください」
「そうか? じゃ、そうさせてもらうね」
ふう。敬語は苦手である。今も昔も生粋の平民だからな。
向かい合って座り、改めてライアンを見る。
その兆しはあったが、やはり、すっごい美形だ。
こんな状況でなければ、その顔を存分に鑑賞させてもらっていたかもしれないな。
と、その時、頭に可愛い従魔の声が響く。
<主さまぁ。ニーネ眠くなっちゃった>
そう告げると、ティティの腕からするりと降り、傍らのソファの上で、とぐろをまく。
<おやすみなさーい>
<うん。おやすみ>
安定のマイペーステルミニーネである。
そんなところも可愛いね。テルミニーネをそっと一撫でする。
起きたら、お風呂だからね。それは確定事項だから覚悟しておくように。
テルミニーネを愛でるティティを前に、ライアンがぽつりと呟いた。
「本当にジオルさんなんですね」
その呟きは、疑問よりも確認。
そして確認であり、切望。
ティティはその問いにあっさり頷く。
「ああ。正直に言うと、前世の記憶持ちって言うより、まんま俺なんだよな。本来のティティの人格はくそ親父に捨てられたショックで、魂の奥底に引っ込んじまったんだよ。だから俺が出て来たっていうか。昔の私を知ってるのはライだけだから、わかるだろ。まんま俺って」
ライアンになら、もう少し詳しく話してもいいだろう。そのほうが信用度が増すだろうしな。
「ええ。姿は少女の姿ですが、雰囲気がジオルさんそのままですね」
どこか納得したように、ライアンは頷いた。
「なんで、すぐにわからなかったんだろう」
ライアンは肩を落として呟いた。
「いや、普通わからんだろう。7歳の女の子に17歳の男の意識があるなんてさ」
ティティがジオルと納得した時点で、あれだけあったとげとげしさがライアンからさっぱり消えている。
これならじっくり話せそうである。
「しかし大きくなったなあ」
改めてライアンを見て思う。
「あれから7年経ってるんだもんな。今の私よりもちょい大きいくらいだったのに、今じゃ首が痛くなるほどに見上げなくてはならないくらいだもんなあ」
「私はそんなに小さくなかったですよ」
ライアンが少し不満そうに漏らす。
「そっか? 私の記憶ではそうだったけど」
そこで言葉が途切れた。
そうだ。ライアンの元気な姿を見るのが、一番の目的だった。
まさか、こうして正体を明かして、話せるとは思わなかった。
けど、それが現実になったなら、まずは話を聞く前に謝らなければならないだろう。
それがけじめだ。
うーん。なかなかお話合いが進まない。
次話こそは。
そしてそして。
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