第313話 ティティ、話す内容を吟味する
当たり前だが、話し合いは明日へと持ち越されることはなかった。
可及的速やかにシリンジャーが入室次第、行われることになったのである。
<だよね>
<であるな>
小型、中型の魔物がわんさと押し寄せた似非スタンピードは騎士や魔法士たちが頑張ってくれたおかげで粗方片付いたし、魔物たちがパニックになった要因であるテルミニーネは今や50セチの小さい?蛇の姿になったから、とりあえず自体は収束した。
けれどもだ。久々の大規模な魔物騒動が起こったことに違いなく。
しっかり自体を把握する必要があるのは自明の理である。
加え、その主たる原因であるテルミニーネはティティの腕に巻きつきご機嫌で、砦内部にいるのだから。
とはいえ、思いがけず色々な秘密がばれてしまったが、更に明かすのはできるだけ人数を制限させてもらいたい。
これはゆずれないから。
<主さまだあ。くふふ>
テルミニーネを砦に入れるにあたり、今は小さくても正体は30メトルを超える巨大大蛇である。
フリーで砦に入れる訳にはいくまいと、砦の責任者であるシリンジャー様の指示で魔力制限ができる首輪をニーネにつけられたのは仕方ないと言えるだろう。
ニーネを大人しくつけてくれた。
首輪をつければ、ティティと一緒にいられるのならば、首輪を付けることに対して全く抵抗がないらしい。
ティティの腕に身体を巻き付けて、頭をすりすりとしている。
可愛いやつである。
「ニーネ。後で、お風呂に入ろうね。身体が汚いから」
そう、小さくなっても気になるのは、ニーネの身体の汚れである。
野生に還っていたのだから仕方がないが、綺麗な薄緑色のうろこが茶色が交った迷彩になってしまっているのだ。森に隠れるにはもってこいかもしれないが、私と一緒にいるなら清潔第一である。
<やー>
「やーじゃないの! ぬるま湯で洗ってあげるから。女の子なんだから、綺麗にしないとね」
「その子もレディなのだね。男子もそうではあるが、レディならばなおさらだね! 小さなレディに同意だ」
ヒースはティティの言葉で察しがついたらしい。
腕に巻きついているニーネを見て、力強く頷く。
「ですよねー。ほら、わかった?」
<はーい>
ニーネは不承不承に頷く。
その頭をよしよしと撫でてあげた。
「本当に、その子、ティティの従魔なのね」
ブリアが付いた席から身を乗り出して、ニーネを見つめる。
「やー。そうっすねえ」
あ、やべっ。前世のジオル口調がついて出てしまった。
ブリアが少し奇妙な目でティティを見つめる。
いかんいかん。気を付けないと。
「それだけ懐いていれば、小さなレディの従魔である事は疑う者はいないさ」
今ティティたちがいるところは、ライアンと初めて会談した時に使った会議室である。
会議室での席はロの字型に組まれたテーブルの左側にティティ、ヒース、ブリア。その正面右側にはライアンが座っている。
ライアンはこちらを見たまま、部屋に入ってから一言も発しない。
ほんの少し前、ティティに縋りついていた姿は今は微塵もない。
強いてあげるなら、目の縁が少し赤くなっているのがそのなごりかなって思うくらいである。
気になるのはもの問いたげな目と、絶対聞き出すぞというオーラである。
やだなあ。なんでこんな面倒臭い事になってしまったのだろうか。
<お主が、軽やかに口を滑らせたからだろうが>
スヴァがいつものごとく、足元で鋭い突っ込みをする。
<や、だって、あんな切羽詰まった場面では仕方ないじゃないか>
スヴァ少し厳しすぎないか。
<非常時でも冷静さを失ってはならぬ。よい教訓になったであろう>
お前はどこの教官だ!ったく。もっと優しい言葉をかけてくれよ。
<お主の気持ちはどうでもいい。どこまで話すつもりだ? 今のうちに決めておかねばなるまい>
<はい。その通りです>
幸か不幸か、テルミニーネによって引き起こされた似非スタンピードの後処理を奔走する指揮官シリンジャー様とブライトはティティに話を聞く前に、後処理に追われ今はここにいない。
ティティたちは彼らの仕事の一段落待ちなのである。
それが終われば、原因となったテルミニーネについて、主であるティティが説明しなければならないのだ。
本当簡潔に終わらせるならば、主であるティティ(ジオル)の気配に気づいて、テルミニーネがこの砦に探しに来た。
それだけなのである。
ただ厄介なのが、テルミニーネの主がティティの前世であるジオルであるのが、説明をややこしくさせるのである。
なぜティティの従魔が魔王領にいたのか。
その説明は前世のジオルの話を抜きには語れないからだ。
<で、どうするのだ>
<ここでは必要最小限のことしか話さないよ>
元魔王であるスヴァのことは無関係ではないけど、この件では話す必要はないので話さない。
だから、ここで話すのはティティが前世の記憶があり、その前世で、魔王討伐隊に加わっていたこと、その時に死を覚悟して従魔を逃したことだけを話す。
<信じてくれるかなあ>
<それは相手次第だろうな。荒唐無稽な話だが、信じねば説明がつかぬのも、また事実だ>
<だねー>
でないと、テルミニーネとここに一度も来ていない、東の辺境にいたティティとの関係が説明できない。
<話すにしても、必ず他言無用と断りを入れるのを忘れるでないぞ>
<了解>
そんなやり取りをしていると、扉が開いて、シリンジャーがブライトを連れて入って来た。
「待たせたな」
さて、いよいよだ。
うまく話さないと。
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