第30話 お礼の品は酒っ
「ふわあ。もう私、一端の冒険者に見えるよね。えへへへ」
<その崩れた顔を何とかしろ。もう酒屋の前だぞ>
腰のホルダーを撫でつつ、にまにましてたら、スヴァから心話で注意がとんだ。
「ちぇ。男のロマンがわからん奴め。わかったよ」
少し口を尖らせつつも、切り替えて、店を見上げる。
やって来たのは、カミオ推薦の酒屋、バド酒店だ。
「おはようございまーす」
そう言いつつ、中へと入ると、大小様々な酒樽や酒壺が沢山並んでいた。
ジオル時代もあまり、酒を飲まなかったので、今一つ詳しくはない。
「なんだ? 随分ちびっこいのが来たな? 親父の使いか?」
「おおっ!」
思わず感嘆の声をもらしてしまった。
酒屋のおっさんの頭が眩しい。よく磨き込まれている。に対して、髭はもじゃらだ。
酒飲みそうな風体だ。この主人にしてこの店ありというところか。
「なんだ?」
「いえ! 何でもありません! 初めまして! 私、ティティルナです! ティティと呼んでください」
「お、丁寧なあいさつありがとよ。俺はバドだ」
なんだ。店の名前まんまか。
「バドさんですね! 今日来たのは、お使いで来たんじゃありません! 私自身の買い物です!」
「お前が飲むのか? 酒は成人してからにしな」
「違います! 門番さんにお土産としてのお酒を買いに来ました!」
そして昨日、街の門での出来事を、酒屋の親父にも話して聞かせた。
「なるほどな。わかった見繕ってやる。それで予算はいくらだ?」
「えと、銀貨3枚です!」
「お、ちびのくせに奮発するな」
「えへへ。門番さん、すごい親切にしてくれたから!」
「ちびの気持ちだけでも十分だと思うがな。となると」
親父はそう呟きながら、酒を見繕う。
「ここいらでは、竹葉を皆好んで飲むんだ」
「竹葉? ですか?」
「おう。米から作られた酒で、香りにくせがあるが、のど越しはするりとして最高にうまい酒だ。ぬる燗にして飲むと最高だ」
バドの親父もここいらのもんに含まれるらしいな。
「ほらよ。どっちも、銀貨3枚だ。好きな方を選べ」
バドが差し出したのは、2つのずんぐりした壺だ。
「大きさが随分違いますね。右の壺は左の壺の2倍ありますよ」
「量を選ぶが、質で選ぶかだな」
なるほど、小さい方の左の壺の酒は、右のより上質の酒か。
「酒飲みなら、まあどっちでも嬉しいと思うぞ。後はお前さんが決めな。お前さんの気持ちだからな」
うーむ。安い酒であれば、手を出しやすい。少し高めの酒は、懐を考えると手を出しにくいんじゃないかな。ならば。
「小さいのにします」
「はいよ! まいど!」
普段飲まない酒の方が土産としてはよいだろう。
「それにしても、この竹葉って高いですね」
エールとかワインとかのほうが安かったような。今はわかんないけど。
「ああ」
少しすまなそうにするバドのおっさん。
なんだ? どうしたどうした?
「ここんとこ、この竹葉の原料である米が不作続きでな。それで高くなっちまってるんだよ」
なるほど、原材料が採れないからってことか。
「不作って、今年特に日照りなどなったような?」
うむ。ティティの記憶では、水不足や水害などもなかったみたいだが。
「ああ、特にそういったことはないんだが、去年もそうだ、特に天候が悪かったとかなかったのに、なぜか作物が上手く育たねえ」
「そうなんですね」
「ああ、だから、街の物価もじわりと高くなって来てるんだよな。今年も不作が続くと、更に厳しいことになりそうだ」
バドの眉間が深い谷間ができる。
「ああ、すまねえ、つい愚痴みたいになっちまったな。まあ、そんな訳で、酒も高くなっちまってるんだよ」
「それは仕方ないですね」
うむ。イリオーネさんに聞いた情報とがっちしてるな。街の人も実感してるってことかあ。こりゃ深刻だな。
「お酒好きの人は大変ですよね」
「そうなんだよ! 客に高けえ! って文句言われたりするが、値上げはしょうがないんだっての! 俺だって母ちゃんにどやされて、飲む量を減らしてるんだからな」
バドの嫁さんは、恐妻か。
「バドさんも大変ですね」
「いや、ははは! 頼む、嫁には今の事黙っておいてくれ!」
「はい」
ってか、俺、バドのおっさんの嫁さん、知らねえから。大丈夫だよ。
あ、この後も予定が詰まってるんだ。雑談してる場合じゃなかった。
「バドさん! 相談に乗ってくれてありがとうございました」
「お、おお!こんなの相談のうちに入らねえよ。また何かあれば来な!」
「はい!」
ティティは元気よく手を振ると、酒壺を持って、店を後にした。
よし、さくっと買えた。これで、門へと直行だ!
きゅるるる。
そう思った瞬間、ティティのお腹がなった。
そして下からもきゅるるるる。
ティティとスヴァの視線ががっちりと合う。
「ちょっと、そこの路地で、つまみ食いしてから行くか」
<それがよいな。腹が減っては採集などできぬからな>
2人の意見は一致した。腹が減っては何もできない。
にしても、燃費悪すぎるよ。しっかり稼がないと、貧乏まっしぐらだ。
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