第296話 英雄様は多感なお年頃だからっ? でもねっ?
両者の挨拶は終わった後の沈黙。
ライアンはまだ一言も発していない。
挨拶だって、シリンジャー様の紹介にただ頷いただけだ。
ちらりと横を見ている。
ヒースとブリア、全然動じてない。
彼がこういう人だったって知ってたのかな。
2人とも知ってたなら、教えておいてくれても。
あ、でもブリアの目に少し困惑が見えるから普段はこんなではなかったのか。
それとも英雄様とはそれほど会う機会がなかったのか。
ちらりとスヴァに視線を向けると、こちらもまったく動じてない。
ていうか、興味なしな感じで、あくびしてるよ。
しかしなあ。いくらこの中ではダントツに身分が高いかもしれないけど、仮にも上司がいる前でこの態度はないだろう。
シリンジャー様が困ってるのわかるよね?
スパコーンと頭を叩いてやりたい。
ジオルならそうしていただろう。
しかし、今は7歳のティティだ。
ライアンからしてみたら、初対面だ。
いくらいたいけな少女からの仕打ちでも、きっと許されないだろう。
ふう。落ち着け。
この無作法者への怒りを静めろ。
まずは、そうだな、普段どういった過ごし方をしているかきかせてもらおう。
<我たちが死した後の事を聞かぬのか?>
スヴァが前足で顔を洗いながら、心話で問う。
ねえ、本当興味あるの?
<いきなり聞いたって教えてくれないかもしれないし、聞けても通り一遍の話しか聞けないような気がするから、それは後でだな。少し打ち解けてから改めてきくよ>
<打ち解けるか。励めよ>
くっ! 他人事だと思って。
いかん、まずは目の前の案件に集中しろ。
ティティは顔に本人が感じる目一杯の笑顔を張り付けて口を開いた。
「あの英雄様、少しお話聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
瞬間。
「あ!」
「「ああっ!」」
「うわ」
シリンジャー、ヒース、ブリアそしてブライトの口から悲鳴じみた言葉が漏れた。
「え?」
なに? 私なにかした?
それに戸惑うまもなく、地の底を這うような声がした。
「私は英雄ではない」
「え?」
「私は英雄ではない! 英雄と呼ぶな!」
ライアンは勢いよく立ち上がると、ティティを睨みつけ、足音高く部屋を出て行ってしまった。
「え、え? なんですか?」
ライアン、いきなり激高! 一発退場!?
どうしたの? 何か発作かなにか?
「うわあ。ヒース様、ブリア様、ティティに注意してなかったの? てっきり2人から注意してると思ってたよ」
「すまない、ブライト殿、すっかり忘れていたよ」
「ごめんなさい」
2人が恐縮したように頭を下げる。
ちょっとちょっと。伝達不足ですよ。それも重大事故起こしてるから。
みてみなよ、シリンジャー様が額に手を当て、首を振っている。
「え、英雄様に会うのに何か注意が必要だったんですか?」
ティティがおそるおそる尋ねる。
「ライアン様は、英雄と呼ばれるのを殊の外嫌っておいでになるんだ」
シリンジャー様が説明してくれる。
「は? なぜでございますか?」
「わからぬ。ただ、英雄と呼ばれると過剰な反応をされるので、この砦の者で彼を英雄と呼ぶものはいないな。それに尊敬の目で見られるのも嫌っているようだ」
「そ、そうなのですね」
マジか。
「だから、こうした場を設けるのも久方ぶりだ。今回は東の辺境伯たっての願いから、ライアン様も渋々了承してくれたのである」
「そうだったのですね」
「すまない、小さなレディ。我々もここまでとは思っていなかったのだ」
「そうなの、ライアン様は滅多に人とお会いにならないから」
なにそれ。また聞き捨てならないことを聞いた。
今聞いただけでも、とんだ困ったちゃんじゃないか。
周りの人間に気を遣わせて。
確かとっくに成人してるよね?
元気そうな姿を一目見たら、後は魔王領をちらりと見て引き上げようと思っていたのに、そうはいかなくなった。
「はあ」
それにしても、ティティになって、美人さんに初お目見えする時に、嫌われるってなんか私呪われてるのか?
ジンクスになりそうで怖い。
あ~。ティティ、またマイナスからのスタートです(笑)
そしてそして。
いつもお読みいただき、ありがとうございますv
もし少しでも続きが読みたいっと思っていただけましたら、☆をぽちりとお願いいたします!




