第294話 誰? 何?
魔王領内部。盛り上がった小さい山のようなそれ。
大岩とまた違う。
鈍色ではない、鉄さび色。
ところどころ苔が生している。
それがもぞりと動いた。
苔ががさりと落ちる。
その小山の頂に並ぶ2つの眼。
それがゆっくりと開いた。
刹那。一斉に魔鳥が飛び立った。
緑の瞳孔が何かを見極めるように縦長に細まる。
瞬間。何を感じたのか。
縦長だったそれが、丸く大きくなる。
大きな鎌首が持ち上がる。
何かを探しているかのように。
何かを見極めるかのように。
やがて小山のごときそれは、ゆっくりと動き始めた。
音無くすべるように。
2つの眼の先。強者の接近に気づかぬ大型の魔物。
ブラックセストベア。
それは忍び寄り、一気に丸のみにした。
ブラックセストベアの巨体を飲み込んでも、それの腹の形は変わらぬ。動きも変わらぬ。
それは更なる獲物を求め、静かに地を進むー。
「うわあ。でっけえ」
ジオル時代に見た筈ではあるのだが、やはりあんぐりと口を開けてしまうほどにどっしりとした砦である。
「ティティ言葉遣い、少し乱暴よ」
「す、すいません」
珍しくブリアから注意が飛んだ。
これは余程荒れているのか。
前世に引っ張られているのかもしれない。
思い出深い地だからなあ。
なんせ、自分が死んだ地だからな。
気を引き締めないといけないか。
にしてもこのマクベス砦、迫力デカッである。
マクベス砦。
それは魔物を防ぐ為に特化した要塞。
分厚く高く築かれた城壁の内部には騎士や兵士の住まう建屋、訓練場、武器庫、食糧庫などなどが整然と建てられている。
城壁の上は歩廊になっていて、凹凸型の環状壁にはより高いところから監視をする為の櫓もある。
もはや砦の域をを超え、巨大な城塞と呼んでも過言ではない。
下手したらブリストンにあるシスピリア城よりも規模が大きいのではないか。
それだけこの砦が重要な役割を担っているのだろう。
<そうだよな。100人を超える寄せ集めの俺たち魔王討伐隊が優に収容できたんだから、それは大きいよな>
魔王討伐に100人って少なって思うかもしれない。
けれど、一般兵士を連れて魔王領に入ったところで、魔王に会う前に、魔物に食われてしまうだろう。だからこそ特殊なスキルを持つ、およそジオルのような討伐に役に立たなさそうなスキル持ち冒険者までもが駆り出されたのである。
勇者が不在で、どのスキルがひょんな結果をだすかもしれないとの思惑からである。
結果として国王の読みは当たり、魔王は討伐されたのであるから、国王の目は正しかったのだろう。
ティティとしては何とも複雑である。
死ぬ間際まで、魔王討伐隊の心無い人間に、スキルで結構馬鹿にされたりしたからである。
話がそれた。マクベス砦に話を戻す。
そしてその砦の魔王領側には深い堀が2重に掘られている。その長さは砦の壁の長さを超えて、魔王領に沿って掘られている。その堀は騎士の訓練の成果であるとも言われている。
なんでも掘りを掘らせるのは騎士の訓練によいとのことだ。
げえ、俺なら勘弁ってくらい、堀は深く長い。
そんな豆知識を思い起こしながら、ティティはマクベス砦の門をくぐったのである。
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