第291話 自分たちが守ったものはー。
少しシリアスです。
「うわあ。城の城壁から眺めたけど、こうしてみると壮観ですねえ!」
馬車で城を出発し、ブリストンの街を抜け、街を守る壁である外郭を抜ける。
そこに広がるのはあまりにも違った景色で。
ティティは思わずそう叫んだ。
昔々、そう7年前見た、同じこの土地は、不毛という何に相応しい土地であった。
魔素や呪素が濃密すぎ、薬にもならぬ強烈な毒草が生え、魔物が跋扈していた。
空を飛ぶ魔物も多く、砦に行くのでもかなりな危険が伴った。
魔王様が狂化していて、魔素、呪素がピークだったから仕方がなかったけど。
それが今。
魔王領とブリストンの間の不毛な土地が、一面ブラックシュガー畑になっていた。
ブラックシュガーはその名の通り、砂糖が取れる背の高いイネ科植物である。
大人の背の2倍はあろうかというほどに高く伸びる。
それが風に吹かれて頭を揺らしている。
この地はほどよい魔素が地中にあり、ブラックシュガーには適した土になっているそうだ。
「このブラックシュガーが栽培できるようになって、城下町にあれだけ安価に砂糖が出回るようになったのですね」
ブライトの説明を受けながら、ティティは目は馬車の窓から外せない。
「そうだね。他の街に比べて砂糖は手に入りやすくなったからね」
「羨ましいです」
そしてこの風景がとても、そうとても、目に染みる。
魔素、呪素を生み出している人間が、魔素と呪素の浄化装置の役割を持つ魔王を討伐したことにより、成り立った平和な風景か。
<何を小難しいことを考えている。我は死なず、ここにいるのだから、目の前の光景を楽しみ、採れる作物に感謝すればよいだけだ>
スヴァがティティの膝の上にのり、同じく窓の外を眺めながら、淡々と語る。
<スヴァ>
お前はいいのか?
そう聞きたいが、人たる自分がそれを聞く権利があるのだろうか?
<ふん。お主はただ好きな事をすればよいのだ。そら、この地の騎士が其方に尋ねておるぞ?>
「え?」
しまった。スヴァにかまけて、ブライトの言葉を聞き逃したらしい。
「ブライトさん、すいません。もう一度お願いできますか?」
「ティティちゃんは甘いもの好きかい?」
それに答えるのは簡単だ。
「大好きです!」
お菓子が嫌いなんて人生半分損してと思う。
<うむ>
膝に座るスヴァも同意するように頷く。
「はは。じゃあ、この領にいる間、思う存分甘いものを楽しむとよいよ」
「ええ。そうします!」
そして砂糖も買い込みたい。もちろんお菓子もね。
そうだね、スヴァ。難しいことは考えなくていいか。
今この場の景色を受け入れ、目に焼き付けよう。
そして願う。いつまでもこの風景が続きますようにとー。
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