第287話 よわよわで狩りやすい、けども!
「ロルフ! ヒースさん! その場で止まって!」
ティティが叫ぶ。
「えっ!?」
驚き振り向いたロルフの足元が、瞬間ぐにゃりと沈む。
「小さき少年!」
咄嗟にヒースがロルフの二の腕を掴み、ぐいっと自分の方へ引き寄せた。
そしてすぐに後退をする。
その間にティティたちは2人に駆け寄った。
<スヴァ! 何! なんでロルフ沈んだの?!>
「マッドフロッグだ!」
それに答えたのは、厳しい眼差しでヒースとロルフが居た場所を見つめてブライトだった。
その視線の先には先程までいなかった魔物が次々と湧き出て来る。
「マッドフロッグって?」
「マッドフロッグは陸地に生息する蛙の魔物よ。水気のないところにでも住み着き、魔法で沼地にしてしまうの。この魔物は雑食な為、そこに生息する在来種や貴重な薬草も食いつくしてしまうのよ」
ブリアが剣を抜きながら、説明してくれる。
「何それ。迷惑な魔物ですね!」
新人冒険者の敵である。
<魔物はすべて敵ではないのか?>
正しい突っ込みはいらないから、スヴァ。
「くそ。こんなところにまで、来てやがったか! こいつらが繁殖したら、貴重な薬草が全滅しちまうぞ!」
剣も抜きつつ、ブライトが舌打ちする。
あらら。言葉が荒れてますね。ブライトさん。この魔物そんなに嫌いなのかな。
「どうする?」
ヒースがロルフを自分の後ろに下がらせながら、尋ねる。
「殲滅する! ヒース殿、ブリア殿、力を貸してくれるだろうか?」
「もちろんだとも!」
「ええ!」
ヒースも剣を抜いた。どうやら、魔法は使わないらしい。
うん。魔法を使わずにすむならそれにこしたことはないよね。
「ティティもロルフも手伝ってくれ! こいつは毒持ちじゃないし、短剣でも退治できる! 泥に足を取られないようにすれば、君たちでも退治できる!」
そう言い放ち、ブライトは親の仇のように、マッドフロッグに向かって行く。
「了解です!」
危険度低いんだね。なら、がんばろう!
ギルドに討伐証明を出せば、報酬ももらえる筈だし。
<スヴァはどうする?>
<我は後ろに下がっておく>
珍しいな。狩りに参加しないなんて。蛙、嫌いなのかな。
ティティは短剣を抜きながら、ロルフに近づく。
「ロルフ! いきなり、魔物退治になっちゃったけど、危険度は低い魔物みたいだから、ちょうどいいかも! 頼もしい大人もいるしやってみよう!」
「わかった!」
ロルフも短剣を抜いた。
その手が少し震えているのは、しょうがないよね。
「行こう!」
ティティは率先して、マッドフロッグに向かっていった。
そして一匹のマッドフロッグの前で立ち止まる。
「うわ。結構デカいな」
すこし怖気づいてしまう。
と、いきなりマッドフロッグが飛び跳ね、向かってきた。
「うわ!!」
咄嗟に短剣で振り払うと、うまい具合に剣の先がマッドフロッグの腹に当たったようで、体液をまき散らしながら、マッドフロッグがビタンと落っこちた。
ぴくぴくケイレンしてるところを止めを刺す。
「一匹やったぞ!」
達成感から声を上げたティティだったが、次の瞬間マッドフロッグから生臭い匂いが鼻をつく。
「うわ。くさっ!! なにこれ!! 超くさっ!!」
テンションがだだ下がりである。
「こいつの体液はすごい臭いんだよ! それになかなか匂いが落ちないんだ!!」
ブライトが次々とマッドフロッグを倒しながら、叫ぶ。
「げっ!」
これはくっつかれたら、たまらない。
それに、なんかぬるりとして気持ち悪い。
ロルフも隣で鼻をつまんでいた。
「こら! 2人ともさぼるな! さくさくとやれ! そうしないと、ここが臭い沼地になるぞ!」
ブライトから檄が飛ぶ。
「うわああ。それもやだ!」
なるほど。ブライトがいやがる訳だ。
あ、スヴァ! あいつマッドフロッグが超臭いの知ってたな!?
ぎりっとスヴァがいるほうに視線を向けると、知らん顔である。
くそう! 後で目一杯文句を言ってやる。
ヒースとブリアはしかめっ面をしながらも、黙々と退治している。
流石魔法士である。この臭さにもめげず立ち向かっている。
ここは頑張るしかない。
「ロルフ行こう!」
「ううっ! わかった!」
ロルフ鼻から手を放し、短剣を握り直した。
そして頷き合いつつ、覚悟を決めてマッドフロッグに向かって行った。
飛び跳ねるマッドフロッグ。
飛ぶ臭い泥。
臭い体液。ぬるりとした腹。
がりがりと気力を削られながらも5人はなんとか、100匹以上ものマッドフロッグを退治した。
退治し終わると、沼地に変化しようとしていた地面が、元に戻った。ただ、そこに生えていただろう薬草は全滅である。
「これは城と冒険者ギルドに報告して、調査が必要だな。ここまでこのくそガエルが上陸してきているとは」
ブライトが剣を振り、マッドフロッグの体液を払いながら、吐き捨てるように言う。
「何か原因があるんでしょうか?」
ブリアもそれに倣う。
「ここは初心者向けの草原ですからね。人があまり来ないと、こいつらや小物な魔物が寄って来るんですよ」
「それは大変だね! 定期的な見回りが必要なんじゃないかな?」
ヒースも剣をおさめながら提案する。
「通常だと冒険者ギルドがその役割を担ってるんだが。冒険者が減ってるのかな。それも調査が必要か」
なんか大人組が難しい話をしてる。
子供は黙っておくよ。大人組に任せた。
それよりだ。
「このカエルどうするんですか? 食べられるんですか?」
これ重要。
「お前、これ食べるのか?」
ロルフがすげー嫌そうな顔をする。
「いや。食べたくはないけどっ。せっかく狩ったんだからどうなのかと思ってさ」
「あー食べられなくはないが、臭みがなあ」
「やっぱりそうなんですね」
だよね。わかってた。
「俺らは焼いて処分しちまうが、冒険者としては、討伐部位で左の後ろ足を持ってくみたいだぞ。それと魔石な」
「「うえ!」」
ティティとロルフはゲンナリする。
やっぱし? そう思ってた。
思ってたけども。触るのやだな。
すっげえ、生臭いし。体液吐き気がするほど、くっさいし!
けれど、折角狩ったし、ランクの評価につながるなら、やるしかない。
「ロルフやるぞ」
もう今日何回ロルフを鼓舞したかわからないが、今が最高にその意気が高い。
だってそうしないとくじけそうなんだもん。
くそっ! スヴァだけ涼しい顔しやがって!!
ティティ、ブライトにつられ口が悪くなってます(笑)




