第285話 ロルフの初クエストへ。いざ!
「うまかったな」
「ああ、うまかった」
冒険者ギルドの扉を押し開けながら、ティティとロルフは先程の肉の串焼きの味を思い出し、再度至福の時を味わっていた。
「なんか、肉の味が濃かった気がする。なんの肉だろう」
「ジャイアントラビットの肉だよ」
ブライトが後ろに続き、答える。
貧民街を抜け、ちょいと進むとゴルデバの街にあるような屋台が立ち並ぶ場所がある。
そこで大人組3人とロルフと私、そしてスヴァと急ぎ昼食を取ったのである。
「我ら領地で取れる肉と同等に美味であったね。少しだけ我らが領地よりも濃厚な味わいがしたね」
ヒースがうんうんと頷いて、同意する。
「うちの領の魔物は危険度も高いけど、魔力が体内にあるためか、味がいい感じに濃いんだよな。ジャイアントラビットもここでは黒い奴のほうが白い奴よりもいける。多分今食べて来たのは黒い奴だよ。その分狩るのに危険度は増すけどね」
「うまい肉は取るのが困難かあ、ロルフ、地道に行こうぜ」
ティティはポンとロルフの肩を叩く。
「おう」
「私たちは端で待ってるわ」
ブリアはヒースの腕を取ると他の冒険者の邪魔をしないようにと、入口側の壁の端に足を向けた。
「了解」
ロルフとブライト、そしてスヴァを連れて依頼ボードの前に歩いて行く。
もう昼過ぎのせいか、ボードの前は混みあっていない。
ロルフと2人ボードを上から順繰りとみていく。
空いているのは助かるが、予想していた通りめぼしい依頼はすでになくなっている。
薬草採集の依頼も、新人のFランクが受けられるようなものはなかった。
ま、そうだよね。
昼からのこのこ出てきて、美味しい依頼があるなんて滅多にない。
「常時依頼はどうかな?」
ボードの端に目を向ける。
常時依頼。
常に冒険者ギルドが求めている素材依頼である。
それは魔物の骨であったり、皮であったり、薬草だったりである。
「これなんか、どうかな?」
後ろにいるブライトに聞いてみる。
「キリング草か」
キリング草。体力を回復するポーションを作る時に欠かせない薬草である。
「ここは魔物がダントツでおおい地域だからね。常に魔力ポーションや体力回復ポーションの需要は高いから、キリング草が常時依頼になってるのは納得だね。城でも欠かせない薬草だよ」
「私達でも採取できますか?」
「うん。大丈夫だと思うよ。一年草で、雑草のように繁殖力が高くて広い地域で採れるから」
「だから、ちょっと報酬が安いんですね」
「そうだね。でもランク上げの点数稼ぎにはいいんじゃないかな」
<うむ。ここは魔素も豊富だからな。薬草も育ちが良い>
だよねー。魔王領の最前線だもんね。
魔素を多く含んだ薬草は、そのまま食べると毒。けれど、加熱するか、一度氷で締めたりすると毒素が昇華して、人間が食べても問題ないし、薬にもなるらしい。
魔物と同じである。
なぜ毒が薬になるのか。
どうしてそう作られているのか。
それは神のみぞ知ることである。
が、スヴァの推測だと、メリットがあれば、人間も率先して薬草を採取するし、魔物も狩る。魔王や魔族だけでなく少しは魔素、呪素を出している人間にも、自助してもらおうとの神の意向があるのではないかとのこと。それでも、人間には大層甘い神様である。
かくゆう自分も人類だから、文句はいえないのであるが。
それはひとまずおいておこう。
「ロルフ、これやってみる?」
「ああ! やってやる!」
いや、そんなに力まんでもいいよ。
まあ、初めてのクエストだったら、そうなるか。
ふふ。いいね。受け身より全然いいよ!
さあ!行こうぜ!
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