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第284話 子供は用心深くね

「ありがとうございました~」

 にっこりと笑ってくれる美人店員さん。

 笑顔は無料だもんね。でもこちらの癒しになるから、ぜひ続けてねっ。

 全部で大銀貨8枚になった。

 うんまあ。こんなもんだろ。

 これでも昨日採取した薬草の価値に比べれば、まだまだだけどねっ。

 店の外にいたヒースとブリアを連れて、少し離れたところに留めてあった馬車に入る。

 そう、私はいいって言ったのに、馬車で移動しないとダメってルミエールが言い張ってさ。

 渋々馬車で来たのよ。

 でもそれでも立派な奴じゃないよ。飾りが何もない馬車だから目立つことはない。

 ないと信じたいけどねえ。がっくり。

 馬車にはブリアとヒース、私とスヴァ、そしてロルフがいる。

 ブライトは御者と一緒に御者台にいる。

 無理すれば座れないことないけど、狭いからね。

 ブライトは外で。

 隣に座ったロルフに買ったものを一つ一つ渡して、鞄に自分で詰めてもらう。

 何があるかちゃんと把握してないとね。

「さあ、これで最低限のものはそろったよ。これで依頼をこなしていけば、お金が稼げるね」

 ティティはにこりとロルフに笑いかける。

「なあ、なんで俺にこんなにしてくれるんだ?」

 少し思いつめたようにロルフが尋ねる。

「言ったでしょ? これは君からもらった情報から得られたお金から君の取り分を現物で払ったんだよ」

「あんな情報でこんなにしてもらえるなんて」

 うん。不安にもなるよね。わかる。

「このことで分かったと思うけど、使い方によって情報はお金になるよ。それに危険なものでもあるから、渡す時には十分に人を見てね」

「わかった」

「俺は悪い奴に売った訳じゃないんだな?」

「うん。今回は当たりだったよ」

「そっか」

「あ、そうそう、実はご領主さまからも褒賞金が出たんだよ。ほら」

 忘れないうちに渡しておかないとね。

「ご!ご領主さまから!?」

「うん。今回の情報が有用だったからね。すぐに通報していれば、もっと額は上がったかもしれないけど。今後は何か変なもの見つけたら、すぐに冒険者ギルドに通報だよ? わかった? わかったなら、ほら受け取って」

「あ、ああ」

 ロルフが少し呆然としたままに受け取る。

「当たりが確信できたかな?」

「ああ! 当たり当たりも、大当たりだ! ありがとう!本当に、これで俺抜け出せるかもしれない!」

 そこでロルフが全開に笑う。

 うん。まだ心配だなあ。

 すぐに信用してしまうあたりが。

<お主が言える立場か>

 スルーしておこう。うん。

 やっぱ。心配だから。おせっかいお姉さんがもう少し忠告しておこう。

「恩に感じるなら、今からいう事を肝に銘じてほしいかな」

「なんだ?」

「まずは私たちは弱い子供だってこと。短剣持ったって、大人には勝てないよ。魔物にだって今の段階では勝てない。だから最初は薬草採集で地道に稼いでいって。魔物を狩りたいなら、ギルドで剣の講習を十分受けてから。それでもランクがEランクにあがるまではやらないほうがいいと思う。私たちは弱いんだからね。用心深く行動して」

「わかった」

「それと貧民層に帰る時にはお金を持ち帰らない事。お金はギルドカードに保管できるからね。必要なだけ引き出して、買い物してから貧民街へ帰って。それでも狙われるかもしれない。ろくでもない大人たちにね。それと甘い言葉を仕掛けて来る大人たちを信用してはだめだよ。助言が欲しい時はギルドの職員に聞いて。冒険者ギルドの職員であっても、人をよく見て判断してね。それでも私たちが生き抜くためには足りないかもしれない。用心してしすぎることはないから」

「わかった。人をじっくり見る。油断しない」

「うん。そうして」

「なんかお前、俺より年下とは思えないな」

 正解。中身は成人した男子だからね。

「あはは。それだけ苦労してると思って」

 あ、なんかブリアが涙目だ。ヒースも目頭を押さえてる。

 ちょっと! 苦労したのは本当だけど、そんなに深刻に受け止めないでくれよ!

 こっちがいたたまれないじゃないか!

 ティティは早口でまくし立てるように提案する。

「じゃあ! 午後は街の外に出て、実際採集してみよう! 冒険者ギルドで依頼を受けてみようね! あ、褒賞金は冒険者ギルドに預けたほうがいいね」

 元気よく提案したティティに、再度ロルフが問いかけてくる。

「なあ、なんでここまでしてくれるんだ?」

「だからさっき言ったじゃん、これは報酬だって」

「それはわかったけど、それだけじゃない気がする。報酬なら金渡して終わりでもよかっただろ? そうしたら俺は冒険者にならずもらった金を生活費に充てて終わってたかもしれない。なあ、なんでだ?」

 鋭いなあ。

 誤魔化せないか。

「んー。ロルフの目が死んでなかったからかな。それに抜け出したいって目をしてたから」

 貧民街で暮らしていると絶望で押しつぶされる。そして更に落ちて行く者が多い。

 でも、ロルフはまだ大丈夫だった。

「それだけか?」

「それだけ。幸いロルフの情報で稼げたし、なら手を貸すのもありかなっと」

「独り占めしちまえばよかったのに。そうしても俺はわからなかったぞ」

「んー。それはなんか居心地悪いっていうか。後味悪いっていうか」

「馬鹿正直者だな」

「そうかもね」

 ロルフは俯いて表情を隠す。

「‥‥‥ありがとう」

「うん」

「さあ、話も終わったみたいだから、冒険者ギルドに戻りましょうか?」

 ブリアが優しくロルフの肩に手を置く。

「‥‥‥うん」

 そう頷きながらも、ロルフはなかなか顔を上げられなかった。

いつもお読みいただきありがとうございます!

少しでもおもしろいっと思っていただけましたら、ブクマ、評価をどうかよろしくお願い致します。

励みになります~。

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