第276話 食べるのは私、考えるのは相棒で
<うわ~。なんだこれ!すっげえやわらけー肉だな>
口の中でとろりと溶けた甘い油に、ティティはふにゃりと目じりを緩ませた。
なんの肉なのか。今すぐにブライトに問いただしたい。
なぜブライトは遥か遠い、領主の後ろに控えているのか。
くう。後で絶対問いただすぞ!
そしてここを旅立つ前に必ずや、この肉を手に入れてみせる!
<お主、西の領主との会食なんて、緊張して食事の味がわからぬと申していたと思うが>
部屋の端で、同じ肉を食べているだろうスヴァが、呆れたような声を心話で上げた。
<ばっか。その緊張を吹っ飛ばすようなうまさだろうがよ! スヴァもそう思うだろう?>
<うむ。確かに美味である。しかし、お主は心を乱しすぎである。ついでに言葉もな。それで今後の会談は大丈夫か?>
<はっ!? そうか。これが、この肉が、ヘクタさまの罠だったのか! 私に旨いものを食わせて、口を緩ませようという>
<そんなバカなことを考えるのはお主だけだ。敵か味方かもわからぬ場で、よくもそんな間抜けな事を考えられるものよ。ほんに、お気楽な奴よ>
<なんだよう>
思わずスヴァの方を向いて文句を言いたくなったが、それは流石にまずい。
ふ。私だって冷静なのだ。
そう心で自画自賛しつつ、最後の一口を口に入れた。
あー。マジにうますぎる肉だなあ! 付け合わせの、ニジンの甘さもまたいい!
「どうやら、ティティルナ殿には、この肉を気に入っていただけたようだね」
ヘクタがこちらを微笑ましそうに見る。
「はい! とっても美味しいです!」
マジでうまい。人間うまいものの前では正直になるよね。はっ! やっぱりこれが罠か!?
「喜んでもらえてよかったよ。この肉はブラックスモールカウの肉でね。用心深くてすばしっこいから、なかなか手に入らない肉なんだよ」
「そんな貴重なお肉なんですね」
やはり、食事油断攻撃か。
これは気を引き締めないと。
<そうだな。油断せぬことだ>
なにやら、スヴァからため息が聞こえたが、どうした。
疲れが出たか?
しかしもう少し付き合って欲しい。
私だけでは、この場を乗り切れる気がしないからな。
なにせ前世も現世も平民で、こういった交渉事には弱いからな。
そう思った矢先、ヘクタが口火を切る。
「さて、それではそろそろ今日の昼の出来事について話をしようか」
おっと、出番だぞ! 私はスヴァのアドバイスに従って話を進めるぞ!
スヴァ! よろしく頼むな!
<他人任せか>
任せられる相棒がいて私は幸せだよ!
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