第273話 無事開花っ
「終わりました」
やれやれだよ。終わった終わった。笑ってないよね。笑われてたら、ダメージ拡大だよ。
伏せていた目を上げて、大人組を見る。
笑ってる人はいなかった。
「ああ! なんということだ! 小さなレディ、御使いさまの愛し子よ、すばらしかった!」
ヒースが感極まったように、打ち震えている。
「本当! ちゃんとしたお衣装で歌って踊ってほしいわ。今度お願い」
ブリアも頬を紅潮させて訴えてくる。
「あはは~。機会があればですね」
いやいや無理でしょ。それにあれは踊りというものでもなかったでしょ。
ぜってーやだ。
それにこれは本来死んだ友に送る歌だ。
当分、誰にも送りたくないね。
「最後のあの光は」
ブライトが半ば呆然と呟く。
ブライトさん、そこは突っ込んじゃいけないところです。
しらを切るぞ。
「えっ? 光ってなんですか?」
「貴女様からとても清らかな光が出ておりました」
すげえ敬語だ。やめて。
「そうなんですか? わからなかったなあ」
ヒース、ブリアその私は貝ですって顔やめて。
「ブライト、ここで起こったことに追及は無用です」
ルミエールがきっぱり言ってくれた。
ありがとう。
「っ。わかりました」
ブライトはまだ何か言いたそうだけど、ぐっと口をつぐんだ。
「それで、これで花が咲くのですね? 骨の上にですか?」
ルミエールが気を取り直したように質問してくる。
骨の上に花。シュールだね。
「わかりません。もう少し待てばわかるので、それを見てください」
成功すればだけどね。
「わかりました。待ちましょう」
私もどんな風にどんな花が咲くのかわからんのよ。
それにこれでよかったのかもわからないし。
<歌と舞はよかったと思うぞ。聖力もちゃんと振り注げていた。後は文献通りなら貴重な植物が芽吹くはずだ>
スヴァがティティに近づいてきながら、心話で告げる。
どうやら合格点だったらしい。
よっしゃ!
「それでは、しばし待ちましょうか?」
ブライトは床を覗き込んでいる。少し気持ちを持ち直したようだね。
よかった。でも質問はやめてね。
そして待つ事、しばし。
「なにも変化ないですねえ」
ブライトが床下の骨から目を離さずに、呟く。
うっ。やめて追い詰めないで。
もう少しだけ、時間をくれ。
<スヴァ~~! 何にも起こらないぞ>
<条件は揃ったはずだが。文献通りならそろそろ変化があってよいはずだ>
でも変化なしだよ。
あーあ。
恥かき損かあ。
と、諦めかけたその時。
骨から淡い光がぽわっと浮き上がった。
「「「「「おおっ!」」」」」
骨からしゅるしゅると蔓が伸びて骨全体へと広がっていく。そして見る間に、白、赤、青、黄色ととりどりの小さな花が咲いていく。
<うむ。実験成功だ>
スヴァが満足げに頷く。
<これはハッカサユリ草といって、ゴーストになり果てた骸に寄生して咲く花だ。発芽は今お主がやった通りだな。骸に籠った呪素に近い魔素を祈りと聖力あるいは癒しの力を降り注ぐことで発芽する。この花でポーションを作れば、強力なアンデッドをも一瞬で浄化する事ができる>
<ええっ! なんで、そんな清らかな花がアンデッドの骨に咲くんだよ>
<知らぬ。ただ、これはゴーストの魂が払われた直後でないと咲かない花だから、その存在はあまり知られていないと思うぞ>
<えっ! それすごい貴重な花なんじゃ!>
<そして寿命も短い。咲ききってしまうと枯れてしまうからな。すぐに採取したほうがいい>
<それを早く言え!>
「皆さん! 手伝ってください! これすごく寿命が短いんです! 摘み取ったら、すぐに私に渡してくださいっ」
ティティの慌て具合から、緊急を感じ取ってくれたらしく、四人はすぐに行動を開始してくれた。
そのおかげで、なんとか、無事に全部収納袋に回収することが出来た。
<もう! そういうことは早く言っといてくれよ>
<すまぬな。我は花を見れただけで満足だったからの>
スヴァは一応謝ってくれたものの、それをどうこうしようとは思わなかったらしい。
彼の研究者としての線引きがわからない。
まあ、アンデットも元魔王さまはお仲間だったわけだしな。
仲間を退治するポーションには興味がなかったのかもな。
とにかくも、ゴースト騒動は一応の幕引きを終えた。
ふう。私の歌と舞が無駄にならなくてよかったよう。
人前で1人踊るなんて、ティティはすごいなあ。




