第268話 薬師さん、何を隠してたの?
スヴァがしきりに調剤室の中央の床をふんふんと嗅ぐ。
<なんだ? 何が気になるんだ?>
<うむ。この床の下だ。この床をはがしてくれ>
スヴァがたんたんと前足で床を叩き、催促する。
どうやら何か見つけたらしい。
<わかった>
「ブライトさん、この部屋の床板をはがしてくれませんか?」
「は?」
「スヴァがこの床の下に何か見つけたみたいです。スヴァの鼻は私よりもききますから。確かめておいたほうがいいかなと」
「わかったよ、おい」
ブライトは扉付近にたっていた騎士に、道具をとってきてもらうように頼んだ。
工具箱か。用意がいいね。
その間にブリアが、カーテンを開けて部屋に明かりを入れ、ヒースが床を調べる。
「この床、どうやら開くようになってるな」
「本当だ」
ブライトもしゃがみこみ、床に指を滑らせる。
私も同じくしゃがみこもうとすると、身体に腕を回されて遠ざけられた。
「ちょっ」
文句を言おうとして、腕の主を見上げれば、そこには端麗なルミエールの顔。
「貴女は離れていなさい」
「はーい」
くそう。見つけたのは私だぞ。
<我だぞ>
スヴァ、その突っ込みはいらないから。
床は幅がそれほど太くない長細い板を並べて作られていて、部屋の中央部分の床だけはがせるようになっているようだ。部屋の中央に大きなテーブルがあったので、気が付きにくい。
スヴァでなければ、見落としていたかもしれない。
すぐに戻って来た騎士は工具箱からやっとこを取り出すと、床の一部をひっかけあっけない程に簡単に床の板が外れた。
次々とはがしていくと、それはちょうど人が入るくらいの長さ大きさで。
「うえっ!」
ちょろりとルミエールの手を逃れ、覗き込んだ先、そこには人の骨が何体も転がっていた。
「まったく、貴女は油断も隙もないですね」
しかめっ面をしながら、ルミエールは自らも床下を除く。
「これが、あのゴーストたちの元ですね」
「そうですね。数えたら、そのくらいは軽くありそうです」
ブライトなんて、床に顔を突っ込んで、奥まで確認している。
「ちょ! 大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。ゴーストは殲滅したから」
「それならいいですけど」
ちょっと不安だ。
骸骨効果か。
<問題ない。危険はなかろうよ>
スヴァがそういうなら、大丈夫か?
いやいや、魔王様、お強いから大丈夫とかないよね。
むーんと悩んでいるうちに、話は進んでいく。
いかん。乗り遅れないようにせんと。
「もしかしたら、ここで薬の効能を調べる実験をしていたのかもしれないな。この人骨を見るとまともな治験ではなかったようだな。やれやれ」
「そうですね、ヒースさん、珍しい薬草を卸していたとは聞いてないですからね」
「この遺体の数よ、腕はよくなかったんじゃないかしら」
みんな言いたい放題だなっ!それになんでこんなに大量に人骨が発見されたのに、驚いてないのっ!
「ティティ顔色悪いわよ、大丈夫?」
ブリアがティティの様子に気づいて声をかけてくれた。
「だいじょぶくないですッ。変なにおいするしっ」
「そう? もう白骨化してるし、それほど匂いはないと思うけど」
「ああ、すまない。小さなレディには、きつかったかもしれないね。外に出ているかい?」
ヒースが今気づいたように、気遣ってくれる。
「ああ、そうね。ごめんなさい。気づかなくて。私たちは慣れてるから、ちょっと鈍感になっていたのかも」
そっか、大人組のみんなはそれぞれ修羅場をくぐり抜けてきてるから。
私はジオル時代でも、そういった経験はないからなあ。
たいして強くなかったし。
経験といえば、魔王討伐の時だけか。
あれは特殊だしなあ。
こうして落ち着いたところで、人の骨を見てるはちょっとね。
少し外で新鮮な空気を吸ってこようかな。
「では、ちょっと」
<待て>
えっ。またなんかあるの?
勘弁してよう。
これ以上メンタルダメージは受けたくないよう。
まだ何かありそうです。ティティファイトだ。




