第257話 肉の串焼き効果はバツグン!
おチビたちにお肉を配れて、そのうえで、ティティに特になる情報が得られれば、更にいい。
けれど、そこまで期待していない。
お得な情報など滅多にないからねっ。
視察とは現状をじっくり見ることなんだから、私のやり方はあながち間違っていないよね。
それにおチビたちが精一杯頭を絞って訴えて来るその顔にはほっこりするから、それでいいと思う!
可愛いは正義だ!
そうしておチビたちに肉の串焼きを配って、残りわずかになってきた頃。
「お前が情報を引き換えに肉を配ってる奴だな」
後ろから唐突に声を掛けられた。
「うわ! びっくりした!」
ちょっとやめてよ!脅かすのは!
ぷんと少し膨れながら、振り返ると、ティティと同じくらいの年の少年が立っていた。
腕を組んで、挑戦的な視線をこちらに向けている。
スヴァが反応してないから、危険はなさそうだねっ。
<尊大な態度だな>
でも、態度が気に入らないらしい。
うん、君に言われたくないかもな。元魔王様。
「そうだけど、何? 君も何か面白い情報を持ってるの?」
「ああ。面白いというか、やばいというか」
そこで視線を落として、逡巡している。
踏ん切りがつかないのかもしれない。
そんなやばめな情報なのか?
「無理に言う事ないよ。僕は言える情報だけで十分なんだ」
そう言って、肉の串焼きを食べている4歳くらいのおチビ女子の頭を撫でる。
「いや! 教えるぞ! 妹が腹を空かせてるからッ」
その台詞と同時に鳴ったのは挑戦少年の腹の虫。
「君もだね」
ティティがくすりと笑う。
「ぐっ」
真っ赤になって言葉を詰まらせる少年。
うん、うん。すれてなくていいね。
「わかった。話を聞くよ」
「ああ、でもここじゃ、ちょっと」
挑戦少年がきょろりと辺りを見回して、口ごもる。
そんなに人目を気にする話なのか?
この子やばいことに足を突っ込んでるんじゃないだろうな。
とにかく話を聞いてみないと。
「わかった。あっちに行こうか」
肉をあげた子供たちから少し離れて、細い路地に入る。
あまり奥には行かないよ。危ないからね。
「ここでいいだろ? それで?」
促されても、しばらく逡巡する少年。
ティティは焦らず、じっくり待つ。
すると、やっと踏ん切りがついたのか、少年が勢い込んで言ってきた。
「俺、ゴーストを見たんだ」
「ゴースト? 町の中で?」
「そうだ」
その少年の話では、街の城壁にほぼほぼ近い家の中でみたという。その家は薬師が住んでいたところらしい。その薬師が死んでからは空き家。広い庭があってそこには薬師が植えていた薬草が野生化しているから、それを目当てに忍び込んだらしい。
「へえ。君、薬草の知識があるんだ」
「まあな」
そこですっと視線を逸らした。
もったいないな。なんでここにいるのか。
そこまで踏み込めるほどまだこの挑戦少年を知らない。
「本当に見たの?」
ティティは眉をよせる。マジか。ここは魔王領最前線。街の魔物の監視はどこよりも厳しいはずだけどな。
「ああ。あれは人間じゃない。赤い目をしてて、ぷかぷか浮いてたんだ!」
「見たのは、一体だけ?」
「俺が視たのはな」
「そっか。それで君はどうしたの?」
「すぐに逃げたさ。当たり前だろ? 死にたくない」
「そうだね」
腰も抜かすことなく、逃げ出せた。立派なものだ。
もし本当なら、この少年は魔物を視る目を持ってるってことか。なるほど。
「うん。これはすごい情報だね。ありがとう」
肉の串焼きを2本取り出すと、少年に渡した。
「それに、これも」
そう言いつつ、銅貨を10枚渡す。
「いいのか?!」
「うん。非常に興味深い情報だったからね」
私はゴーストの情報より、薬師が育ててた薬草が気になる。
幽霊屋敷は王都や他の大きな都市でもあるあるだ。少年が見間違いも十分ありうる。
でも、薬草は確実にありそうだ。貴重な薬草があるかも。
空き家になっている庭の薬草勝手に取ったら、怒られるのかな。
これはブライトに聞いてみよう。
でも、この少年に薬草全部取られちゃったかな。
全部はとってないよね。ああ、わくわくするぞ。
もしかしたら、家の中に、貴重な薬草が残ってるかも!
もし手に入ったら、もう少し彼に還元しないとな。
「ねえ、君、名前は?」
「ロルフ」
おっ! 素直に教えてくれたね。偽名かな。
「ロルフか、また君には話を聞きに来るかもしれない。いつもどの辺にいるの?」
いくつか彼がうろついている場所を聞いて、ロルフと別れた。
うん。最後にいい情報が聞けてよかったね。
視察としては成功じゃないか?
経費でいいことできるっていいよね(笑)




