第255話 ちゃんと指示に従ってくださいねっ
「そんなに怒らなくてもいいのに」
ルミエールは早々に昼食であるサンドイッチを食べ終えると、まだ食べているティティに延々と説教をした。
もうわかったと言ってるのに、これでもかと言うほどにくどくどと。
折角の美味しい、肉入りサンドイッチの味も半減である。
<お主が悪いな>
もはや誰も味方はいないようである。
ジオル時代、孤児院でチビたちの面倒を見ていたティティからしたら、一言モノ申したい。
が、スヴァまで敵に回ってしまったとなると、分が悪い。
<今のお主の立ち位置を把握することだ>
<私の立ち位置>
立ち位置。親に捨てられた女子冒険者。それ以外に何かあるか?
<はあ。もういい>
<なんだよ。教えろよ>
<今言っても、お主の頭に入らないだろう。それよりも、次の案件に集中しろ。失敗できぬであろう>
<むう。了解>
不満はあるものの、ティティよりも頭がいい元魔王様がいう事だ、ここは素直に従っておくべきだろう。
今回の貧困層の視察。
なぜか、ティティがメインで行うことになったのである。
やりたいようにやってよいとのお墨付きで。
私はおまめで、ついて行くだけの筈。もっと言うなら、お城に残して来てもいい存在である。
私が視察に同行したのは英雄ライアンに会う為で、ぶっちゃけ、それまでは、お城にいてもいいくらいなのだから。
けれど、どうせなら、平民1人なら見れないところを見れるだろうと思って、ついて回ってるだけの存在である。
しかし、ルミエールとしては、孤児院に対するティティの視点が新鮮だったらしい。
今回も自分たちと違う視点で新たな発見ができるかもしれないからという理由だった。
それでも、ティティは最初は断ったのである。
しかしルミエールは意見を変えない。がんこちんだった。
ティティにしてみれば、何がそんなにルミエールの琴線にふれたのか不明だったか、そういうことなら、自由にやってやろうと思って渋りつつも頷いたのである。
ぶっちゃけ、私としては街の改善に役立つ意見なんて言える訳ない。
できるのは、視察にかこつけて、孤児院に入れないおチビたちの腹を一時満たすこと、そしてあわよくば自分の利益につながる情報が得られればいい。それだけである。
その準備として用意してもらったのは、肉の串焼きと銅貨である。
銅貨は最初自分のものを使おうとしたが、却下された。
ティティが冒険者ギルドで買い取りをお願いした際に、小銭を希望してたのをしっかり報告されていたらしく、それを追求されたのである。
ヒースもブリアも細かいんだから。
もし貧民街に行く機会があったら、使おうと思っていたのである。
貧民街に続く道の少し手前まで来たところで、最終的な打ち合わせだ。
「じゃあ、いいですか。私から少し離れてついてきてくださいね。バッグに大人が、それも身なりのいい人達がいたら、警戒して逃げてしまいますから」
「わかりました」
うーん。ルミエール本当わかってるのか。ぼっちゃまだからなあ。
「ブライトさん、頼みますね」
商家出身の彼の方がまだわかってくれそうなので、最後に念押しをする。
ブリアとヒースはぺったりついてきそうだなあ。
「お2人も、離れててくださいね!」
念押しをする。
「わかった」
2人は不承不承に頷いた。
じゃあ、行くか。
ティティは肉の串焼きが入った袋と銅貨が入った鞄を肩にかけて、スヴァとともに馬車を下りた。
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