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第251話 カンバスはやっ!

 えっ。すぐに行くの?

 まだ、商品もできてないのに?

「あの、ものもできていないですし、後でもいいかなあと思いますが」

 ティティはそっと提案してみる。

「いえ! 登録は早ければ早いほど、よろしいかと! どこでアイデアが盗まれるかわかりませんからっ!」

 カンバスが鼻息荒く叫ぶように主張する。

 孤児院にこのおもちゃを持っていけるなら、別に誰が作っても私はいいけど。

 そう言えない雰囲気だ。

「骨格がすでに出来上がっているなら、早いほうがいいでしょう。貴女の本来の目的地へも早々に出発しなければならないですからね」

 と、ルミエールまでカンバスに同意する。

 そうか。ここに来ているのは、視察から外れた行動だもんな。

 あまり面倒かけてもいけないのか。なんなら私一人でそっと登録に行ってもいいんだけどなあ。

 これも言えそうにない。

 でも、ルミエールの今の口ぶりからすると、明日明後日くらいに、マクベス砦に向けて出発するのかもしれない。となると、今登録しとかないと、すごい遅くなってしまうのかな。私はいいけど、カンバスさんが許してくれなさそうだ。

「なに、お時間はとらせません。少しお待ちいただければ、仕様書をご用意してすぐに戻って参ります」

 カンバスはそう宣言すると、私が描いた玩具の原案を手に、部屋を出て行ってしまった。

「仕様書が出来次第すぐにもどると思いますので、少しお待ちいただければと」

 ブライトがカンバスの代わりに、ソファに座って頭を下げている。

 仕方ないか。先に終わらせた方がすっきりするもんね。

 そう思いつつも、自然に口が尖るのを止められないティティであったが、カンバスと入れ違いに入ってきたメイドさんが、お茶のお代わりとともに、お菓子を持ってくれた為、文句は吹っ飛んだ。

 なにこれ。私、昨日頑張って色々考えたご褒美か。

「これ、いただいても?」

 ルミエールとブライトの顔を見ながら、一応お伺いを立てる。

「もちろん、どうぞ」

 ブライトはにこにこ顔で、ルミエールは一つ頷き、許可をしてくれた。

 少し行儀が悪いかもしれないが、自分の割り当ての皿を持ち上げて、しげしげとお菓子を見る。

 お皿には二種類のクッキーがのっていた。

 1つは丸い形の薄いクッキー。美味しそうある。

 もう1つが初めてみる形だ。

「小さい白いタマネに似てる、ふよっと角が立ってて、可愛い形」

「ティティは初めてかな。それはメレンゲクッキーだよ。触感が独特で面白いよ」

 ブライトがにこにこと説明してくれる。

 ティティはその小さい白いお菓子をそっと指でつまむと、口の中に入れる。

 すると、じわりじわりと溶けほろほろとほどけて行く。

 雪菓子ともまた違う感触。

「美味しい~~」

「気に入ってくれたならよかったよ。よかったら、お土産に少し渡そうか?」

「!」

 その言葉にびょんと身体が跳ねる。

 なんと! ブライト、油断ならぬ奴だと思ったが、実はとてもいいやつだったか。

<お主、短絡すぎるだろう>

 スヴァがあきれたように、首をふる。

<だって、すっげー美味しいんだぞ! スヴァも食べてみろよ!>

 そう言いつつ、メレンゲクッキーを一つつまむと、スヴァの口元に持って行く。

 スヴァは指に触れないように、口に含んだ。

<むっ!?>

<新触感だよなっ! どこに消えちまったのかと思うよな!>

<面白いな>

<だろだろっ>

 ティティは今いるところがどこかも忘れてはしゃいだ。

 お貴族様に出すお菓子だからかレベルが高いぜ。

 これは素朴な形の丸型のクッキーも期待できる。

 紅茶を一口飲んで、口直し。

 そしてもう一つのクッキーを手に取る。

 うーん。見た目は普通のクッキーっぽい。

 丸型のクッキーを一口かじる。

 さくりっ。

「ん、んんっ!」

 軽い歯ごたえ。そしてすっきりした甘さ。これであれば甘味が苦手な人でも、食べられるだろう。

 砂糖控えめにしてるのか?にしても、この軽い歯ごたえは材料に何か工夫が?

 これなら、何枚でも食べられそうだ。

「どう?」

 ブライトが聞いて来る。

「はい。すっきりとして美味しいです。それで、軽いですね」

「そう。それがこのクッキーの特徴なんだよ。どちらも材料の卵で卵白しか使ってないっていうのが共通の特徴だね」

「へえ。そうなんですね!」

 やはり材料が違うのか。それでも全卵使うのと、卵白だけつかうのとで、これだけ違うものができるのか。

 お菓子も奥が深い。

<スヴァも食べるか?>

<いらぬ。先程の菓子で口が甘いままだからな。せっかくなら、後でじっくり味わいたい。我の分を貰っておいてくれ>

<了解>

 そうだな。水を出してやりたいが、今は出せないからな。

 うーん。どちらもとても幸せな味だったなあ。

 目を瞑って、味をリフレインする。

 幸せだ~。

「ティティは両方気に入ったみたいだね」

「はい! こちらに来てよかったです!」

「ははは。お菓子じゃなくて、商談に来てるんだって忘れないでくれよ?」

 あ、そうだった。

 いかん。しっかり気を引き締めないと。

 はっ。このお菓子は罠だったのか?!

 すっかり気が緩んでしまったよ。もうブライトの好きにしていいよって言いたくなるくらいだ。

<商談をしっかりまとめれば、このお菓子がたくさん買えるのではないか?>

<そっか! じゃあ気合を入れないと! アドバイスありがとうな!>

<いや、いい>

 なんか、スヴァが疲れてるみたいだけど、気のせいかな。

「おまたせしました」

 そのタイミングで、カンバスが部屋に戻ってきた。

 はやっ。

 まだお菓子残ってるのに!

口の中でとろける感触たまらないですよね

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