第249話 ブライトの実家にいこう!
「おはようございまーす」
翌朝。今日の視察場所は貧困層の住む地域、いわゆるスラム街。そこの一日の始まりは早くない。
どちらかというと遅め、スロースタートである。
その為、それにあわせて遅めの出発でいいのであるが、それならばと馬車はある場所へ先に向かう事になっている。それはブライトの実家である、スローター商会である。
昨日の帰りの馬車で話した玩具を作ってもらう為である。
「急に尋ねて大丈夫ですか?」
馬車に乗り込むと、ティティは尋ねる。
「大丈夫ですよ。昨日、知らせを実家に走らせましたから」
「そうですか。ありがとうございます。今日はよろしくお願いします。」
ブライトやる気だな。しかし、本当に売れるのかね。
ティティは半信半疑だ。作りは単純だし、誰でも作れるんじゃないか?
<単純でも、いままで作られていなかったのだろう。そこに価値があるのだ>
馬車の床にお座りするスヴァが、ティティの問いに心話で答える。
<はあ、そういうもんかね>
今日の視察メンバーは昨日と同じだ。ティティ、ブライト、ルミエール、ヒース、ブレア、そしてスヴァである。
今日の格好は最初は商会に行くというので、ブルコワにもらった服を身に着けている。
ちょいお嬢様風のちゃんとした服を着たほうが舐められないだろうというチョイスである。
ブライトに一度出し抜かれそうになったので、最初から気合を入れる為でもある。
ほどなくして、スローター商会に到着した。
スローター商会はうわって驚くほどではないにしても、そこそこ大きい店構えである。
馬車から出ると、少しぽっちゃりとした男が、玄関先で待っていた。
「ようこそ、おいでくださいました。わたくし、カンバス=スローターと申します」
どうやら、ブライトの父親らしい。
自らお出迎えとは恐縮である。
<お主ではなく、東の領主の息子に対してだろう>
<あ、やっぱり>
うん。そんな気がしてた。
「会長自ら、出迎え、痛み入る」
ルミエールが答える。
どうやら会長を知っているらしい。
事前情報はばっちりのようだ。
「もったいないお言葉でございます。ささ、中へとお入りください」
そうして案内されたのは、豪華な応接間だ。
壁には高そうなタペストリー。毛足の長い絨毯。
お貴族様用なんだろうな。これだけの部屋を維持するのも大変だろう。
<でも窓小さくないか? もっと大きくしたほうが、明るいのにな>
<秘密が漏れぬようにだろう>
<なるほど、スヴァあったまいいなあ>
<お主も少しは頭を使え。疑問に思ったら、なぜそうなっているか自分で解を探してみよ>
<へいへい>
いちいちそんなことしていたら、疲れてしまう。そこはスヴァに任せたい。
その考えが滲み出ていたのか、スヴァに肉球で足を小突かれる。
なにそれ、ご褒美か。可愛い。
そんなやりとりをしている間に、ソファに座ったティティたちの前にお茶が出された。
席は、3人掛けのソファにルミエールとティティが座り、その足元にスヴァ、ソファの後ろにヒースとブリア。
向かい側にカンバスが座り、その後ろにブライトが立っている。
商談の間は、ブライトは店側ってことなのかな。
「改めまして、東の辺境領主のご子息さまである、ルミエール様を当商会にお迎えできて、存外の喜びでございます」
「ああ、前置きは今回はなしでかまわないですよ。今回私は付き添いですからね」
「さようございますか、それでも当商会に足を運んでいただけましたこと、こうして縁を結ぶことができて、幸いでございます」
うわあ。そっか。そういう前置きがお貴族さまや商談の前には必要なのか。
ずばっと本題に入らないんだな。
「それでは、ルミエール様のご要望もありましたので、本題に入らせていただきたいと存じます。愚息のブライトから、なにやら新しい玩具をお作りになりたいとか」
「そうです。ティティ説明を」
「はい。初めまして、ティティルナと申します。本日はお時間をとっていただき、ありがとうございます」
ふふ。私もこれくらいは言えるのさ。
「これはこれは、しっかりした可愛らしいお嬢様ですね。丁寧なご挨拶ありがとうございます。カンバス=スローターでございます。以後お見知りおきを」
「こちらこそよろしくお願いします。
「早速ですが、昨日孤児院を視察に行った際に、私が作った即席のおもちゃを、もっとしっかりした形にしたいと思いまして、ブライト様に相談をしたのです」
実際相談したのはブライトだけにじゃないけどね、そこはいいだろ。
「それがこちらです」
ちゃんと見本作ってきたから、作ってね。
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