第229話 冒険者ギルドにも商人的な人いるのね
「お待たせ致しました、ティティ様」
そう言いながら、指示された部屋に入って来たのは、さっきの美人のお姉さんでなく、20代やせぎすの男だった。
きびきびとティティが座っている椅子のテーブルを挟んだ真向いに座る。
うーむ。なんかゴルデバの商業ギルドの職員、ベルナルディに雰囲気が似てる。
一言で言えば、うさん臭さがぷんぷんする。
あーあ。さっきの色っぽいお姉さんに引き続き対応して欲しかったなあ。
それをそのまま言ってみる。
「あのお、さっきのお姉さんはどうしたのですか? とてもよくしてもらったので、引き続き対応お願いしてもらいたいなあって思うのですが」
「ああ、申し訳ございません。ティティ様は多数の貴重な素材をお持ち込みいただきましたので、こうして個別に対応させていただきたいと思います。わたくし、ナレルと申します。わたしくもそれは丁寧に対応させていただきたいと思いますので、どうかよしなに」
いや、君よりもさっきのお姉さんが断然いいよっ。目の保養になるし、何より気を張って対応しなくていいしね。けれど、然しものティティもそこまでは言えない。
「わかりました」
と返すしかない。
「ありがとうございます」
うわあ。ナレルさんとやらの笑顔がこわっ。
やっぱ小出しにするべきだったかなあ。
つい面倒くささもあり、出しちゃったんだよな。
それに明日の為に、手元にお金が欲しかったんだよなあ。
<明日の為? なんだ?>
いつものように足元にちょこりと座ったスヴァが心話で尋ねてくる。
<ほら、さっきルミエール様に明日視察どこに行きたいか聞かれただろ? それで私は孤児院に行きたいって言っただろ?>
<ああ、言ってたな>
<ん。それでもしそれが通ったらさ、そこのチビたちに土産を買って行ってやりたくてな>
どこの街の孤児院も、きっとカツカツな筈だ。
一時の楽しみにしかなんねえけど、土産を買って行ってやりたい。
何を買うかって、決まってる! 食べものだ!
もちろん自分たちの分も買うぞ!
<なるほどな>
スヴァはそれで興味を失ったのか、伏せて目を閉じてしまった。
反応薄いなー。
いいけど。
「ティティ様? どうかしましたか?」
「なんでもありません。ちょっと、従魔がちょっかいかけてきて、それに気を取られただけです」
「ああ、そうですか」
ナレルの視線が、ティティの横にちらりとゆれた。
残念、スヴァは足元だよ。見えないでしょ。
ナレルは気にした様子もなく、その視線を今度はティティの後ろに移る。
「買い取りを進める前に、後ろにいらっしゃる方々をご紹介いただいてもよろしいでしょうか?」
あー、やっぱり聞いちゃう? 気になっちゃうよね?
2人で商談だったら、狭さを感じさせない部屋も大人3人入ると狭さを感じるよね。
でも、私の心の平安の為にも、一緒にいてもらうもんね。
んー。なんて説明しようか。変に勘ぐられてもいやだしなあ。
そもそも私が座ってる椅子の後ろに立ってるから、余計に説明しにくい。
護衛じゃねっって思っちゃうよねっ。実際そうなんだけどっ。
冒険者に護衛っておかしいよねっ。
だから、部屋の隅にある予備の椅子を持って来て、私の隣に座ってって言ったのに。もう!
ティティの逡巡の隙をついて、ヒースが手を大きく広げて、口を開いた。
「やあやあ! 私はヒース、そして隣にいるのはブリア。この小さなレディの心の友さ! 心の友であるレディがここに用事があるとのことだからね! 我らもこうしてついて来たという訳さ!」
ティティはあんぐり口を開いた。
心の友って何!?
そして説明しているようで説明になってないよ!
「ああ、我々は気にしないで欲しい。この子の保護者的なものだと思ってもらえればと思う」
ブリアがすかさずフォローしてくれたけど、保護者的なものって何?
確かに冒険者に護衛がつくなんて、ただ事じゃなくなっちゃうけど、保護者的なものも一般的にはいないからねっ
私がやっぱり説明しなくちゃか。でも面倒くさっ。簡単でいいや。個人的なことは突っ込まないのがマナーだしなっ。
「あー、すいません。2人は友達で。私が冒険者になりたてなので、心配で付き添ってくれたんです」
うん。これが一番無難だよな。
「さようでございましたか。 随分親しいのですね。取引の場に立ち合いをお許しになられるのですから」
「心の友だからね!」
ヒース、心の友が気に入ったらしい。いつ、彼の中で私の立ち位置そうなったのか。
「あの、この後予定もあるので、買取お願いしてよろしいですか?」
これはさっさと取引を終えて退散したほうがいい。
ヒースにしゃべる隙を与えると、余計こじれるような気がするしっ。
ヒースの活躍の場を作れないのが、少し寂しいです(笑)




