第223話 昼食っ! デザートつき!
「ふっふっふっー」
黒パン、具沢山スープ、そしてメインの肉料理。そしてデザートが入った小ぶりな皿をとって、ティティはテーブルに着いた。
スープはとろみがあり、根菜がごろりと入っている。ティティは迷わず黒パンを突っ込む。それからメインがのった皿に目を向ける。メインの皿にはなんの肉が不明だが、厚めにスライスされて焼かれたものが3枚乗っている。野菜はいもが気持ち程度。野菜はスープでとれってことかな。脂身がじわりと溶けてうまそうである。うむ。これは熱いうちにいただかなければ!
ナイフで切り分けて、はむりと口に入れる。
「うまっ!」
思わず、女子からぬ感想が口をついて出た。
シンプルな塩味だけの味なのに、肉本来の味が最大限に引き立っている。
「うわあ。これを毎日食べられるとは魔法士の皆さん、幸せですねえ」
「ああ、今日の肉は、ブラックピッグだね。こいつの肉はうまいんだよ。滅多に取れないから、ラッキーだったねえ」
「そうなんですねえ。はあ。幸せです」
何と言っても、肉が柔らかい。その上、下処理に手を抜いていないのがわかる。下処理大事だからなあ。
話しをしている間もティティの手はとまらない。
あっという間に一枚目を食べ終える。
そして浸して置いた黒パンをぱくり。
うん。やわらかくなって、スープの旨みを吸ってうまい。
合わせて芋やニジンの具も口に入れる。
うんうん。煮込まれているからこその味。
いいね。
そうして肉、パン、スープと均等に食べて行く。
スヴァも足元で黙々と食べている。
尻尾が少しフリフリしてるのが可愛い。
そしてメインを食べ終えると次は一番の楽しみであるデザートだ。
まずはじっくり手元に引き寄せ観察する。
見た目は四角くて黒い。元々はもっと大きなもので、それを切り分けたようだ。
なんだろうか、これは。少し行儀が悪いが、スプーンでその物体を突いてみる。
思ったよりも固い感触。
ジオル時代、海辺で海藻を加工してつくったゼリーを食べた事がある。
ふるふるして触感がおもしろかった。
これはそれよりも固い。
叩いたら、ベンベンと音がしそうだ。
うむ。いざ参る!
スプーンで端を薄く切ってすくってみる。
プルンとした感じはしない。多少の抵抗を感じつつ、ゆるゆると切れた。
スプーンですくって、口に入れる。
「おおっ!」
どっしりとした感触、こってりとした甘さ。
濃厚な味わいだ。腹に残る。
うん。騎士や魔法士が食べるには少ない量だと思ったが、この大きさでちょうどいい。
お茶、少し苦めのお茶が合う。
しかし、ここには水しかない。
うう。残念である。
「どう? ティティ美味しい?」」
隣に座ったブリアが尋ねる。
「はい! 初めての感触です!」
「だろうね。ここ魔王領の境の森にしか生息しない魔草が原料だからね」
「魔草? 薬草とかと違うですか?」
説明してくれた斜め前に座ったブライトに顔を向ける。
「魔草も薬草の一種だけど、魔素を多く含んだ植物を特にそう呼ぶんだ。このヨーカの原料もそう」
魔力を多く含んでるって。身体に悪くないのか?
<魔草は、火を十分通して使えば、浄化されて、害がなくなる。また成分が変化されたりする。これは甘み成分に変換されたんだろう>
スヴァがティティの疑問に答えてくれた。
<じゃあ、魔草は火を通せば大丈夫なのか?>
<基本はな。全部ではないぞ。元々毒を含んだものもあるし、植物は何千何万種類もあるのだからな。一つ一つ検証する必要があるだろう。非常に興味深い>
あ、こいつのスイッチが入ったか。だが、ヨーカをもぐもぐしてるので、しまらない。
しかし、1つ勉強になったな。
「原料の植物はなんという名前なんでしょう。薬にならなくても、このような美味しいデザートの原料になるなら、十分に価値がありますね!」
「私には少し甘すぎるかな」
ブライトの隣に座るヒースが半分で手を止めている。
なに、それ食べないの? 本当に?
じっと見つめていると、その視線にヒースが気づく。
くれる?くれる?
ヒースは根負けしたように、皿をティティのほうに押した。
「食べかけだけど、食べるかい?」
「はい!」
もちろんだとも!
ヒースはお行儀がいいから気にしたのかもしれないけど、私は気にしない。
残すなんてもったいない!
「ありがとうございます!」
とお礼を言いつつ、べろりと平らげた。
「うーん! これ、どこかに売ってないかなあ」
ちらりとヒースの隣に座ったルミエールは完食している。
甘いもの密かに好きなのかもしれない。
違うよ! 残ってら、もらおうなんて思ってないからねっ。
「そんなに気に入ったのかい? 町の菓子屋でも売ってると思うけど、少し高めだよ?」
ブライトが親切に教えてくれる。
「そうなんですか?」
少し高いのかあ。うーむ。騎士のブライトがいうなら、平民が買うには本当高いのかもしれない。
「ああ、ここで食べられるのは、料理人が甘味に拘りのある人でね。自ら魔草を取りに行ったりしてるから、食べられるんだ。街では魔草もそれなりにするから、少し高めかな」
そっか。魔素が多く含む場所で採れるんだから、危険度が高いのか。
にしても。
「すごいですね。このお城では料理人も強いんですね」
「ああ、うちの料理人は下手したら、現役騎士より強いかもな」
「ええ!?」
なにそれ。戦うコックさんなのか!?
「この領ではそのくらいじゃないとね」
ブライトがウインクして言った。
魔王領に近いからか。
一芸だけでは、この職場ではやっていけないのか。
レベル高すぎるでしょ。
この領での新たな一面を見られた。
お腹も知識もいっぱいです。
ご馳走様でしたっ。
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