第221話 せっかく和んだのにっ
「次! 次行きましょう! 今度は楽しませる自信があります!」
子供が気を使ってると思ったのか、ブライトは力説する。
もしかして、ブリアの案内べたねっという視線に敏感に反応したのかもしれない。
歩廊も十分楽しかったが、そこまでいうブライトに次の見学場所に期待しよう。
次に訪れたのは城の庭園だ。
「うわあ。綺麗ですね」
もう秋も深まったこの時期、なんの花かわからないが小さな草花や、紅葉した木々が目を楽しませてくれる。
「ここは、奥様が丹精込めて仕上げております庭園なのです」
そっかヘクタ様結婚してるんだねっ。当たり前か。
この魔王領の最前線の城で楽しみの一つとして庭園というのも頷ける。
丹精込めて仕上げているのは庭師だろうが、それでも綺麗なことに変わりない。
「うーん。いつまで眺めていたいですねえ」
ティティは綺麗なものは大好きだ。
癒しだよねっ。
魔王領付近とは思えない、洗練された庭園。素敵だ。
「ふう」
ブライトはティティの様子を見て、安心したようにため息をついた。
案内役として面目躍如と思ったのかもしれない。
うんうん。思っていいよっ。
とその時、ちょっと頭に疑問が浮かぶ。
「あの~、質問してもよいですか?」
ティティが小さく手を挙げる。
「いいよ。なんでも聞いて」
ブライトがニコニコしながら頷く。
「ありがとうございます」
城を見学して疑問に思ったことがある。
「領主さまが住んでいらっしゃるお城本体よりも城壁で囲まれているお庭部分のほうがはるかに広いですね」
この地、城塞都市と呼ばれるこの地の構造は城壁が2重構造になっている。
まずは街の中央にある城本体を囲む城壁。その外側に町全体を囲むようにある第2の城壁がある。
さらには第3章障壁とも呼べるものも実はある。マクベス砦を中心として障壁が広がっている。
とはいっても魔王領に面するすべてに壁があるわけではない。
魔王領はこの大陸の中心を分断するように広がる長い領である。
それに合わせて作るなど不可能である。
話がそれた。
今ティティが尋ねているのは、城を囲む第一の城壁の内部についてだ。
「うん。城には基本領主さま一家のみが住まう場所で、そのほか街を守る拠点としての役割に重点を置いているので、それほどの広さないのです」
それでも十分広いと思う。行政の役割も担っているからだろう。
「それにしてもお城を囲っている壁の内側はかなりゆとりがありますよね?」
「はい。城の他には、私たち、騎士が住む建物と、魔法士が住む建物、訓練場、武器庫、馬房、魔法士の研究塔がありますね。上位の騎士や魔法士はそれぞれ屋敷を構えてたりしますが、基本住み込みですね」
外にお屋敷かあ。お貴族様か、お金持ちだねきっと。
「でも、それらの建物を抜かしてもかなりな広さですね。ああ、そうか」
ここは魔王領に近い領だ。敵に第二の城壁が突破される危険がある時に、民が避難できるように、広めな作りになっているのか。
「ティティちゃん?」
ブライトが不思議そうにティティの顔を眺める。
「いえ。納得しました」
「ええっ!? まだ僕説明してないけど!?」
「勉強になりました」
「説明させてくれないの?!」
<城壁は内側の方が高くなっていて、頑強だ。だが、空からの備えは不十分だな>
スヴァが思案気に心話で呟く。
<空を飛ぶ魔物もいるもんね>
<魔族も空を飛べるぞ>
<ええ!? マジか!? 羽ないじゃんかよ!?>
<羽がなくても飛行は可能だ>
<うえ。何それ万能じゃん>
<弓もいいが、それよりも大物を仕留められる武器の開発が必要だな>
げっそりだ。
この地思ってたより、危険地帯だった。
しかしスヴァ、魔族や魔物って元味方でしょう?
倒し方考えるなんて怖いよ。
「ティティちゃん?」
「いえ。思ってたよりもここは大変なんだなって」
「へ?」
「すごい立派な城壁があって、心強いですけど、空からの攻撃の対処はなかなか大変ですよね。人間相手ならともかく、空を飛べる魔物は結構いますものね」
「「「「!」」」」
四人の大人が息を飲む。
それに気づかず、ティティは続ける。
「小型の魔物ならともかく、中型、大型になると、弓では対処できない。となると、魔法で対抗?だとすると、騎士さまがもったいないですよね。騎士様が使える武器、それも機動性のある大型の武器が必要ですね」
ん?
なんか周りが静かだなと思って、思考から周りに目をむけると、4人がじっと自分を見つめているではないか?
「な、なんですか?」
「いや、小さな女の子がそこまで考えつくなんて」
やべ。なんかまずったか
「いやあ、ほら、たまたまですよ?」
本当は中身は大人だし、スヴァもいるから思考が進んだだけでね?
「ティティ、どんな武器が頭に浮かんだのですか?」
やべえ。ルミエールの目がマジだ。
助けを求めて、周りを見る。
やべえやべえ、皆の目がこわっ。
「はは! やだなあ! 私、何にも思い浮かんでないですう」
そう言ってティティはその場から逃げ出した。
<やはり、お主は口が軽いのう>
だったら、とめろよ!!
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