第220話 お城見学っ
「それでは、城の中を案内致します」
「はい!」
ティティは元気よくブライトの後ろについて歩く。
横を進むはブリアとスヴァである。
スヴァは城には慣れているのか、歩き方が堂に入ってる。
うむ。可愛いぞ。
少し気になったのは、私がルミエールやヒースよりも前を歩いていていいのだろうかというところである。
私はあくまでおまめな存在。大人3人の後をついて行くのが正しい在り方ではないか。
張り切って前を歩いてしまったけれど、ルミエールはじめ、大人組は特に文句は無いようである。
はて?
<彼ら3人は1度もしくは何度もこの城に来ているからであろう>
<なるほど!>
そういうことか。
これだけの城だ。改修など滅多にしないだろう。
一度見れば、十分なのかもしれない。
ちなみにジオル時代この城をじっくりみる時間も心の余裕もなかった。
魔王討伐という任務がずっしりと肩に乗ってたからね。
とは言いつつも、領主の本丸だ、見せられない場所も多い訳で。見せられるところ、自由に動けるところは限定されてくるし、実際彼らには城の見学など必要ないのかもしれない。
だから、この城に初めて訪れたティティに一歩譲ってくれてる、もっと言えばティティの為の城見学ツアーなのかもしれない。
ならば、お城に入れる機会など滅多にないだろうから、存分に楽しもう!
「ルミエール様、ヒース殿、ブリア殿はこの城へ何度もお越し頂いているので、特別は案内不要かと存じます。その為、ティティちゃんに合わせた案内をさせていただきます。よろしいでしょうか?」
ブライトが歩みを進めつつ、口を開いた。
「かまわない」
ルミエールが代表して頷いた。
やっぱりそうだったか。
「ではまず見ていただくのは、そうですね、謁見の間でしょうか」
謁見の間! ジオル時代、王都で王様にお城で挨拶する時に、一度だけ入ったことある!
ふわっふわっの赤い絨毯。王国の紋が入った巨大なタペストリーが垂れ下がってた。大きな窓もガラス張り金かかってんなあって思ったんだよな。
この領では入ったことない部屋だ!
ちょっと期待。
そして着いたところは、それはそれは広い部屋。
「謁見の間! お! お?」
豪奢なお部屋はいずこに。
ものさみしいがらんとした部屋で。
入って正面奥には階段状になっている。通常ならそこに領主さまが座る椅子がありそうなものだが、それもない。豪華な絨毯もなしである。物寂しいむき出しの石の床。
なにこれ。
「あー。普段滅多に使われないので、絨毯や装飾はしまってあるんですよ。汚れるのでね」
ブライトが説明する。
「な、なるほど」
合理的だ。けど、見学するには少し寂しい。
って、これ見なくてもよくない?
のっけからテンションダダ下がりである。
思わず、口がへの字になった。
「あー次行きましょうか! そうだ! 城と言えば城壁、城壁の頂部は歩廊になってますから、眺めがいいですよ!」
ブライトがティティのがっかり感を読み取ったのか、早口で先を促した。
何?! 城壁は下から眺めるだけで上に上がったことない!
すごい眺め良さそう!
これは期待できる。
「行きましょう!」
ティティは急激に気分を上げて、ブライトについて行く。
そしてついたところは、城壁の頂部。
「ほら、あちらが魔王領ですよう」
ブライトが少し得意げに彼方を指さす。
「あー‥、はい」
お城の城壁の更に先、城下町の更に先にある魔王領。上空、なんかどんより暗いっす。
そうだった。魔王領は基本曇天だった。
けれど街を囲む城壁の先、マクベス砦へと続く道を除き、びっしりとなんか背の高い植物が広がっている。風がそれらをさわさわと揺らしてちょっとよい風景である。
お城は街の中央、高台の上にあるから、魔王領までよく見える。
城下の街並みもだ。
いい眺めなのだが、ちょっと違和感。
なんだろ?
「そっか。前は街の城壁の先は、何にもない平原で、魔物が走ってたんだ」
それが今は植物が揺れている。
「うん、そうなんだ。魔王が討伐される前は、マクベス砦で魔物を全部食い止めることができなかったから、街の城壁の外は不毛な土地だったんだけど、今ではこの領地の重要な産業として活用できるようになったんだよ。って、ティティちゃん、魔王討伐前のことよく知ってましたね」
「えっ! はは。こちらに来る前に少し勉強したんです!」
「おお! 小さなレディ、流石だな! どこで勉強したのだ?」
ヒース! そこは突っ込まないで!
「えっと、詳しい人に聞いたみたいな?」
間違ってないよ!
ジオル時代の記憶だもんね!
しかし目が泳いでしまう。
苦し紛れの言葉に、大人三人組はそれぞれ思い当たったように納得してくれた。
ブライトは言葉通りに受け止めたみたいである。
<うかつな奴め>
スヴァがやれやれと首を振る。
<だってさ! あまりに変わってたから、つい口からぽろっと出ちゃったんだよ!>
<気持ちはわかる>
<我も変化に驚いている>
そっか。スヴァの方がより感慨深いかもしれない。
抱っこしたスヴァと、無言で眺める。
スヴァの顔を見下ろすが、何も読み取れない。
獣の顔色、わかんないよねっ。
「ん~。女の子には面白くなかったかな」
黙ってしまったティティに、ブライトが頭を掻く。
考えてみれば、お城見学で女の子が楽しむとこなんてあまりなさそう。
「いえ。城壁の歩廊なんて滅多に歩けませんから。昇れてよかったです」
私は中身は男子だからねっ。十分楽しいよっ。
大丈夫! ブライト! 次に行こう!
お城見学楽しいそう。ティティが羨ましい。
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