第219話 味は濃い目ですね。
ティティはうきうきしながら、お盆をとって、朝食をもらう列の最後に並ぶ。
騎士、魔法士どちらの食堂でも基本的にメニューは一種類らしい。
ただ、重要ポイントしては無料であること。いくら食べてもだ。すっげえ太っ腹。
考えてみれば、騎士、魔法士は身体が資本だもんね。
ご飯が十分でないと力も発揮できないもんね。
勤務時間が終了したならば、ここでも酒が飲めるらしい。
もちろん有料。けど、街の店で飲むよりは幾分安く飲める。
だけど、体力的、金銭的、余力があるものは街へと繰り出すらしい。
そうだよな。酒だけでなく、その他の楽しみも街にはあるしな。わかるぜ。
「おや! 今日は可愛い子が交ってるね!」
厨房で料理を配っているおばちゃんが、ティティを見て、にかっと笑う。
「おはようございます! 東の辺境領から視察に来ました!」
ちゃんと挨拶! これ大事!
「あらあら! こんな小さいのに仕事でそんな遠くから来たのかい? 感心だね! いっぱい食べてお仕事頑張りな!」
ティティの服から平民とみたのか、おばちゃんが気さくに話しかけてくれる。
そして次々とパンやスープ、肉などをのせてくれた。
身体に合わせて少し控えめだ。うん。私1人だけだったら、これでいいんだけどね。
「あの! もう少しもらっていいですか?」
「もちろんだよ! けど、そんなに食べられるのかい? 残すのは許さないよ!」
「大丈夫です! 私の相棒の分ですから」
そう言って、足元にいるスヴァを示す。
「ああ、そういう事かい。わかったよ」
カウンターから下を覗き込んだおばちゃんが納得した。
おばちゃんはもう一人分追加してくれた。
席を見つけてみんなで座る。
ブライトはお茶だけだ。
「先に食べたのでね。皆さんはゆっくり召し上がってください」
おう! 先に食べたんなら、遠慮なく!
食事は味わって食べるぜ!
<そう言いつつ、お主は早食いよの>
スヴァがティティの足元で自分の皿に口を付けつつ、ぽつりとつぶやく。
それは仕方がない。孤児院育ちだからな。さっさと食べないと横取りされたりするからなっ。
今日の朝食は黒パンと根菜たっぷりのスープ、それにスライスした肉と葉物野菜の炒め物である。
朝から豪華だ。
ちゃんとした食事って感じだ。
朝食は、屋台などでさっと済ませるのが普通。
日のあるうちに目一杯働なきゃだから、じかんを掛けていられないのだ。
今日は少しゆっくりに食べよう。
ブライトがそう言ってくれてるしね。
<呼び捨てか>
いいじゃんか。心の中だけだよ。だってブライトって感じなんだもの。
それはさておき。
まずは黒パンを手に取り、ばりっと二つに割る。
そしてスープに突っ込んでおく。
行儀悪いなんて言ってられない。そうしてふやかしておかないと、幼女のティティには固すぎて食べられないのだ。
よし。その間に、炒め物だ。
青々とした葉物と肉を同時にフォークに突き刺し、はむりと口に入れる。
塩味と口にぬける微かなハーブの香り。
「んー! おいし!」
塩味だけかと思ったら、少しだけど調味料が使われている。
なんて贅沢!
フォークが進む!
ちらりと前を見ると、ヒースがすごい速さで野菜炒めを食べている。
けど、がさつさがない。育ちの良さが現れている。ヒースの隣に座るルミエールは優雅かつ早い。
ティティの隣に座るブリアも食事の進みが早い。
日常的に仕事に追われてるんだろうなってわかる。
もっとみんな食事を楽しんだ方がいいよっ。
と思いつつも、ティティの手も止まらない。
ちょうどいい塩梅にふやけたパンをあんむりと口に入れる。
いいね! スープを吸ったパン。腹が膨れるね! スープの味も少し濃い目だけど、いい!
ブリアと反対隣りに座っているブライトはにこにこしながら、こちらを万遍なく見てる。
みんなの食べてるのみたら、また食べたくならないのかなあ。
本当お茶だけでいいの?
「はっ。もう食べきってしまった」
しまった。つらつら考えているうちに、食べきってしまった。
くそう。もっと味わえばよかった。
でもまあ。お腹も膨れたし、これで今日一日元気が出そうだ。
「皆さん、食べ終わりましたね」
ブライトが様子を見つつ、声を上げる。
「それでは、城の中を案内致します」
明日の朝食はぜひとも魔導士の食堂に行きたいなあ。
ブライト、よろしく。
朝はしっかりと食べないとですね。




