第216話 けしからんっ
どうやら英雄様はこの城よりも、より魔王領に近い最前線のマクベス砦のほうに、いつも詰めていて、この城や街に滅多に来ないらしい。
何それ、ストイックすぎないか。
青年にやっと手をかけたところだろうに、不健全である。
けしからん!
ジオルが死なずにそのまま知り合いとして傍にいたら、色々と指導しているところである。
まあ、そんな訳で。
彼を、ティティに会う為だけに、こちらに呼び出す訳にはいかない。
そんなことしたら、ティティってば何様!?てなことになる。
それにだ、彼がこの地にいる身分としてはヘクタの部下ではなく、客人としているらしい。
なにそれ。なんか訳アリなのか。闇が深いのか。
それとも英雄さまだからか?
英雄様は自由度が高いのかもしれない。知らんけど。
なので、視察の過程でマクベス砦に行った時に、彼との会談を組んでもらうことになった。
ただ少し懸念がある、と、ヘクタ様は言っていた。
彼は社交的ではないらしく、会談は難しいかもしれないとのこと。
「確かに昔も人と話すのはあまり得意そうじゃなかったよなあ」
しかし折角領主さまにセッティングしてもらうんだから、ジオルとして話せないまでも間近に見て彼の様子を知りたい。
ブルコワ様が好意で視察団のおまめにしてくれたのだ。
それを最大限に活かしたい。
じゃないと国守さまの課題をクリア出来なさそうだからだ。
本当は気ままに西の辺境にきて、英雄になった青年の姿をちらっと遠めでもみれればよしだったのだが。それも状況を聞くに、厳しそうだから、視察団のおまめになっててよかったと思う。
出発時は愚痴ってたけど。
話がずれた。
ともあれ、西の領主さまがおぜん立てしてくれるのだ、彼がいる目と鼻の先に着いたのだし、急いでも仕方ない。
急いては事を仕損じるっていうし、お仕事しながら、会えるのを待つとしよう。
「うん。ブルコワ様にお礼を返すつもりで、視察団のおまめとしてしっかりやろう」
「おまめとしてなのか。お主らしいな。まあ、7歳の幼女の手伝いないだろうからそれでよいだろうな」
「だろ? だって私に何ができるよ。7歳の女の子だぞ。大人しく後ろを着いて歩く。それがベストだろっ」
「大人しくねえ。そうできればよいがな」
「なにそれっ。やめてくんない。なんか不吉さを感じるからっ」
「ほう。察しがいいな」
「やめてよ!とにかくだ! ルミエールたちのついて行きつつ、楽しむ! これだよ!」
「考えたのだが、使節団の邪魔をせず、部屋でじっとしていたほうがかもしれぬぞ。砦に行くときだけ同行するのも一つぞ」
「却下! そんなん面白くないだろう。どうせ同じ時間を過ごすなら、私は視察団に同行するぞ!」
「言動が一致していないぞ」
「いや、そうでもないぞ! 私が部屋にいるとなったら、きっと護衛に人が割かれるだろ? その人件費を考えれば、視察団がまとまってるほうがいいに決まってる!」
「やりたいことに対しては頭が早く回転するらしい。普段もそのくらい頭を使って欲しいものだ」
「うるせえよ!」
まったく! 口のへらない奴め!
スヴァが涼しい顔で続ける。
「それと、英雄とやらが救う魂の1つだとして、もう1つの救わねばならん魂も探さねばな」
「う、わかっているよ。視察についていくときにもちゃんと、アンテナを張っておくさ」
「美味なるものに、現を抜かしていて見逃すなよ」
「ううっ。わかってるよ。スヴァも頼むぞ」
「うむ。人の機微はわからぬが、不審なものがおらぬかは見て置く」
「なんか不安な答えだが、よろしくな」
と、その時、ノックの音が響いた。
どうやら、ブリアが帰って来たらしい。
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