第215話 前向きにっ
「ものは考えようだよな」
ティティは頭を切り替えた。
今ティティがいるのはシスピリア城の一室。
その部屋は右にベッドが2つあり、その足元の先には簡素なテーブルセットが置かれていた。
ルミエールのようなお貴族さまが泊まるような部屋ではない。宿屋であれば、ちょっとお金出したから少しよさげなくらいのお部屋である。
平民のティティにしては十分贅沢ではあったが、風呂付の宿にずっと泊まっていたりした身としては驚くほどにゴージャスでなかったし、ブリアも同室なので、心強い。
ちなみにブリアは今いない。
スヴァと2人きりで、椅子に座り、アーリデアルトの森で採取した薬草類を仕分けしている。
テーブルを挟んだ椅子の上にはスヴァがちょこりと座っている。
正確には高さが足りないので、クッションの上にだ。
このクッションはティティが裁縫の感覚を取り戻す為に作った試作品である。
「なんのことだ?」
ティティと2人きりだからか、スヴァが普通に声を出して尋ねた。
相変わらずいい声である。
「いやさ、さっきヘクタ様に一発かまされて、調子狂っちゃってさ、結局お城に泊まることになっちゃっただろ? でもさ、それも考えれば悪くないかなってさ」
スヴァが黙って聞いているので、それに勢いを得て、更にティティは言い募る。
「ほら、要はちゃんと視察団の一員として扱ってくれるってことだろ? そうであればさ、おまめでもさ、一般の人が行けないところも行けたりするだろうし、見れないところも見れたりするかもだしだろ? それにさ、美味しいものも食べれるかもだしな! 城に滞在するのも悪くないんじゃないか?」
うんうんと頷きながら話していたティティをじっと見つめ、スヴァが零す。
「我がしっかりしなくてはな」
「どういうこと?!」
折角人が前向きにとってるのに、含みある言い方だな!
「だって、そう思わなきゃやってられないだろ!」
「うむ。少しはわかってるようだ。結構」
スヴァめ! えらそうに!
「それにだ! 城に滞在してればさ、ライアンに会える確率が高くなるだろ?」
口を尖らせながら、ティティは言い募る。
「彼に会う手配は、領主がしてくれると申していたであろう?」
「まあな。でもさ、一回だけ、形式的に会っただけじゃだめな気がしてさ」
「というと?」
「ほら。俺のさ、未練でさ、気になったからちょっと様子見るだけだったら、一回だけでよかったかもしれないけど、もし国守さまの課題の一人がライアンだったら、一回だけじゃ難しそうだろう?」
「そうかもしれぬ。ちゃんと考えているのだな」
「だろ?」
ティティは褒められて? ニカっと笑った。
先の西の領主ヘクタとの会談で、からかわれたと知ったティティは子供らしくぷうっと膨れた。
その様子を面白そうに見て、ヘクタはちらりと手紙の内容を教えてくれた。
その内容とは。
ティティは東の辺境領の恩人なので、どうか彼女の願いをできるだけかなえて欲しい。
その願いとは英雄であるライアンに会うこと。それがきっと御領地の為にもなるだろう。
うん。ブルコワ様、国守さまのことは一言も書いてないけど、恩人って大げさだし、なんか含みを感じるよね。
むう。でももしかしてそこまでプッシュしないと英雄様と面談なんて実現なんてしないかもしれない。
だって、片や国の英雄、片や一般平民の幼女だ。
ティティとしては一目彼を見れればよかったのだ。
ぶっちゃけ生きてるのをみれれば、それでよかった。
しかし先程スヴァに言ったように、国守さまの課題をクリアするにはきっとそれだけだと不足だ。
「ライが元気でやっててくれれば、問題ないんだけどなあ」
「そやつに何も問題がないとすると、救う魂は別の者ということになって、一から探さなくてはならなくなるな」
「ぐっ! それはそれで大変だよな」
この地に知り合いは殆どいないし、一からは探すのは厳しいぜっ。
かといって、ライアンの不幸を望んではない訳で。
「ごちゃごちゃここで考えても、仕方なかろう。まずはそやつに会ってみればよい。考えるのはそれからだ」
「だな」
会う段取り領主のヘクタがしてくれる。
けれどはいでは明日という訳には行かない。
なぜなら現在英雄様はこの城にいないからだ。
まあ、近くにはいるんだけどね。
スヴァの声ってどんな声なんだろうか(笑)




