第213話 合図はまだ?
短めです。
ねえまだ、お菓子食べちゃだめ?
なんか、クッキーが変わってんだよな、真ん中に赤っぽい色のやつ、ジャムか?
なんのジャムだろう? それに茶色と小麦色の縞々柄もある。
見た事ないぞ。おい。誰も気にならないのか。
周りを見ても誰一人お菓子には注目していないようだ。
ち、これだからお貴族さまはよ。
いかに自分たちが恵まれているか。わかるか?
きっと街で買ったら、高いに違いない。誰も食べないなら、ハンカチに包んで持ち帰りたい。
そしてスヴァとゆっくり味わって食べるのだ。
パズールが書状に目を通す間、待ての時間が続く。
よだれを回避する為、少し周りに注意を向ける。
パズールに書状を手渡す役割をした年若い従者の少年、ソファの後ろに控えている騎士の2人、そして入り口の扉に控える騎士までもが何気にティティに視線を向けてくる。
わかる。わかるよう。ティティだって思う。
不審だよね、視察団の中にティティのような幼女がいるが。
それもルミエールの隣に座っている幼女。明らかに平民。並んで座っているのが変である。
旅装束を解いていないから、冒険者風の服装のままだ。
着替える暇をくれたなら、一張羅を着たかもだけどな。
だからヒースとブリアと同様にソファのうしろに控えたかったのに、ルミエールにひっぱられてソファにすわることになった。
居心地悪すぎるっしょ。
親書に目を通す領主さまを見てティティは思う。
ああ、早く終わらないかなあ。街を見て回りたいな。
屋台巡りしたいっ。
<御使いの課題にすぐに取り組まなくてよいのか>
鋭くスヴァが突っ込みを入れる。
<う。いや、それも重要だけど、だけど! 息抜きも必要だろうが!>
だって、アーリデアルトの森を出て、ここまで遊びたいのを我慢して来たのである。
少しくらい羽をのばしてもいいだろう。ノアに土産を買わんとだし!
つらつらとティティが遊びに思いを馳せているうちに、パズールは親書を読み終えたようだ。
そこでティティは渾身の願いを込めて、領主を見つめる。
領主さま、どうかお菓子に手を伸ばして!
もしくは食べてよし!の合図を出して!
そうすれば、私も食べられるから!
と、ばちりと領主さまと視線があった。
やべっ!
見すぎか? 偉い人を見る時は、相手に気づかれないようにすんだっけか。イリオーネの小言が聞こえてきそうである。
領主さま、まだこっち見てるし。その俯瞰な眼差しやめて! 優し気なまなざしに戻って!
一体何がブルコワ様の手紙に何が書いてあったの?!




